松茸

2020/11/09

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

実のところ私は人見知りだから、アシスタントディレクターのT君が髪を切って現れた時、
目を見て話せなかったのである。
肩まであった長髪をバッサリ切った上に、横と後ろを刈り上げて、全体的に丸く仕上げたその頭は、
通常マッシュルームカットというのだろうが、
長い、とひと言で済ませられないほど面長のT君は、マッシュルームではなく松茸になっていた。
ロングからショートはイメチェンだが、長髪から松茸はイメチェン突き抜け別人であり、
いつもと変わらぬとりとめもない会話を交わしていても、
初対面の人と話しているような気がしてどうも落ち着かず、
口元を見ながらハーとか、フーとか、たまにハーフーとかハフハフとか、適当な相づちを打っていた。
髪型が変わっただけであたふたするほどの人見知り、直したいとも思うのだが、
そのためにしばらくラテンの国にでも行こうものなら、
数年後、帰国した時にまた新しい髪型になっている可能性もあるし、
T君には二度と髪型を変えず、松茸として生きていっていただきたいと切に願うのである。