酒と記憶

2020/12/21

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

最近、お酒を飲んで記憶をなくすことがある。
騒いだりするタイプではないから、迷惑がかかることはしていないが、
人に聞くのも怖いし、何より自分が怖い。
そんなとき、便利なのがスマホの写真である。
無意識、いや、もしかしたら意識的に記憶を残そうと脳が働いているのか、
どこの店にいたのか、何を食べたのか、何を飲んだのか、自分はどんな感じだったのか、
推理小説のように写真がヒントをくれる場合もある。
先日も記憶に曖昧な部分があるのでフォルダをのぞいてみると、記憶がよみがえってきた。
見たこともないお酒のボトル。瓶には56度の表記。
ドイツのお酒らしいが、たしか、テキーラのような飲み方をした気がする。
そりゃ、記憶もとぎれるというものだが、自分はどんな振る舞いをしていたのか、そこが気がかりだった。
友達に聞いても、いや、いつもの建策だったよと言われたが、俺のいつもってどんな感じなんだろうと、
写真に手がかりはないかと探していたら決定的なものがあった。
お店の看板犬である。
いつも私を襲う勢いでじゃれついてくるのに、その写真では、
椅子の後ろに隠れるようにして、哀れみの視線をくれたあと、
二枚目は気まずくなったのか、目をそらしているのが見てわかった。
俺は犬に気を使われる飲み方をしていたのか…。
パーティーを開催するときは記念撮影だけでなく、証拠写真を残すこともおすすめしたい私なのである。