才能と諦め

2021/02/22

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

人には、それぞれ秘められた才能があるが、職業しかり、生き方しかり、
それを活かせている人は1%もいないと思う。
なんでもない平凡な一日を過ごす人に、世界を救うかもしれない発明の才能があったり、
実はイチローが野球よりもサッカーに挑戦していれば、今より大成していたりと、
本当のことは誰にもわからない。
職業的なものならまだしも、人生でまったく役に立たない才能があっても不思議ではなく、
レモンの絞り方が上手だとか、リコーダーで綺麗な音を出すことに、世界一の能力があるかもしれない。
それこそ何万、何百万の行動がこの世にはあり、
その中で自分がもっとも輝けるものを見つけることが成功の秘訣だ。
だが、そうなってくると運の要素が強くなる。
与えられた時間の中で挑戦できることは限られているし、
スポーツをはじめ身体的な能力を必要とされるものにはさすがに限界がある。
頭を強く打った瞬間に、数学界の謎とされていた何かしらの定理を解く可能性もあるが、
さらにバカになるほうが現実的だ。
一歩間違えれば還らぬ人になることだってある。
そこで私が出した結論は、諦めること。
もう無理だから、さっさと諦めて現実的な部分に力を注いでいこうと。
文章を少しでも早く、少しでもおもしろく書こうとか、
生活は穏やかに、ちょっとした不幸とそれを少しだけ上回る幸せがあればいいじゃないか。
たしかに宇宙飛行士に未練はある。
バルサの10番にだってなりたいし、巨人の4番にもなりたい。
若い女性客が利用する銭湯の番台にだってなりたい。
そういった夢を諦め、現実的に寄せていくことは、間違いじゃない。
生きるというのはそういうことで、
とりあえず、私には諦める才能が備わっていることにたった今、気づいたわけだが、
生きることに関しては諦めないように頑張ろうと思う。