プロフェッショナルの流儀

2021/03/01

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

作家を名乗るようになって十余年、それなりにキーボードを叩いてきたつもりだ。
昔は夜中にさかりのついた猫の鳴き声や酔っ払いの声をBGMに、
ここ最近は原稿に費やす時間を逆算して早朝に書いている。
原稿を書く時間帯は作家の性格によってバラバラで、朝型と夜型に分かれる。
私の統計上、真面目な人は夜、不真面目とはいわないが、ぶっきらぼうの人は朝である。
どちらが自分の肌に合うか、仕事を円滑に進めるうえで大切な見極めとなるので、
これまで何度も朝と夜を繰り返し自分の脳に判断を委ねてきたわけだが、
ようやくひとつの答え、正解をみつけた。
「そもそも家で書くのが間違い」これである。
私のような心の弱い人間にとって、家は最強のアウェーなのだ。
テレビ、マンガ、ゲーム、布団。
特に布団の誘惑は、サッカーに例えるなら中東で行われる試合と同じで、油断するとレッドカードを一発で提示される。
そこで意識高い系よろしく喫茶店を利用してみると、これが捗るのである。
学生をはじめとする賑やかな客でごった返す店と、
コーヒーについてうんちくを語り出しそうなマスターがいる純喫茶の中間ぐらいに位置する落ち着いた店が近所にあり、
滞在時間は店に迷惑がかからないよう2時間以内にとどめる。
この環境が絶妙で、集中をピークにもっていけるのだ。
なぜ今まで気づかなかったのだろうか。
もっと若い頃に気づいていれば、今ごろはゴールデン番組を何本もこなす売れっ子作家になっていたはずなのに。
若い頃に気づいていれば…か。
きっと、時間を巻き戻してもそれはそれで気づかなかっただろうな。
試行錯誤を繰り返した末に今があるし、
まだ成長しようと、新しい発見を求めたからこそひとつの答えに辿り着いたのだろう。
そんなもんだよ…。
もう一人の自分からそんな声が聞こえた頃に原稿が終わり、コーヒーに口をつける。
フレンチトーストはすっかり冷めている。