技術が超えられないもの

2021/03/15

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

以前、出先で後輩のPCを拝借したのだが、改めて「慣れ」の重要性を知った。
マウスがしっくりこないのである。
陶芸家ができたばかりの器をろくろごとぶん投げたくなるのに似た怒りを感じ、
マウスひとつで物書きが商売道具であるPCを破壊してもおかしくない、そんな気分になった。
人間の感覚とは不思議なもので、違和感を受けると避けてしまうのだ。
身近なところでは、人間関係がそうじゃないか。
ガラケー派とスマホ派もそうか。
情報や技術の進歩が著しい今、我々は科学の進化に生活を豊かにしてもらっている。
しかし、技術がどこまで頑張っても人類の頑固な感覚までフォローすることはできない。
先日、マウス売り場で、最先端の技術を駆使して人間の手にフィットする高額なマウスを触ってみた。
実際に動かしてみたけれど、カゴ売りされていた690円のマイマウスの勝ち。
当然、慣れれば前者に軍配が上がるかもしれない。
しかし、触れた瞬間に圧倒的な何かを感じないかぎり、古きものを捨て新しいものに移行しようとは思えない。
そして、もうひとつ。
私が今のマウスと付き合っているのは、何より愛着である。
人間に組み込まれた揺るぎないものが最後の確実な決め手。
ちょっと小ぶりで、稀に右ボタンが不自由になるけど、
君がいなければ人を笑わすことも笑われることもできない。
いつもありがとう。