オウム返し

2021/04/19

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

思い返せば、あの時からである。
10年ほど前。生まれて初めて足を運んだキャバレーで、
ひとりの女性に名前を尋ねられた。
元々の滑舌の悪さに緊張が加わり、うまく伝わらなかったのだろう。
彼女はこう言った。
「ペン先さん?」
バカ野郎、ペン先なんて名前のわけがないだろう。
あんたに子どもが産まれたとして、その子に「ペン先」と命名しますか?
もしくは1%でもその可能性がありますか?
そもそも「ペ」から始まる名前なんて林家以外で聞いたことありますか?
病院の待合室で「荒木さ~ん、荒木ペン先さ~ん。いませんか~?荒木ペン先さ~ん!」。

こんなアナウンスをされて、周りにクスクス笑われて、
私がペン先ですと名乗り出ることができるだろうか。
近くにいたお婆さんに、
「あら、ペン先なんて尖ってそうな名前なのに垂れ目なんだねぇ」と言われ、
これが決定打となり、心を深く閉ざすこととなるに違いない。
たまにいる、聞こえた音を脳みそを通さずにオウム返ししてしまう人。
この頃から、そういう人種が苦手な私なのである。