サッカーカードとWの娘

2021/06/21

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

ディレクターのW君がサッカーカードが欲しいと言うから、
ならば家へ取りにくればと伝えたところ、
早速、娘とともにやってきたのはいいのだが、
まだ、よちよち歩きの娘は私のことを使徒とでも思っているのか、
まともに顔すら見てくれない。

逃げられれば追いかけたくなるのが人の性である。
まずは悪い人ではないことを知ってもらうために、
抱っこしようと笑顔で近付けば、
大人でも滅多にしないようなしかめっ面をするから、
ほうら美味しいぞとシュークリームで誘ってみたが、
やはり顔をしかめて父親のもとへかけていく。

オイ、娘、そんなに親父が好きか。
血眼になってサッカーカードを選んでいる親父のことが
そんなに好きなのか。
オレはもう卒業したぞ。
そのカードを使うゲームは卒業したから、
ほら小銭ならあるんだと5円玉をちらつかせるも、まるで効果なし。
お金を目にした途端、満面の笑みを浮かべすり寄ってくる、
世の中を知りすぎている女子でなくてよかったと思う反面、
大人のフィニッシュホールドをあっさり返されて弱り果て、
「オレの何がいけないんだ」と父親に問えば、
鷹のように鋭い視線をカードに向けたまま、
「あー」とか「うー」とか気のない返答を繰り返すばかり…。

昔から子どもに懐かれたことはないし、
懐かれたいと思ったこともないのだが、
たまに、いつかできるかもしれない娘に
笑いかけられる日を夢見ていたりもする。

そんな中、仲睦まじい親子を見て、
私の口から出てきたセリフは
「そろそろ帰って」だった。