バカな好物

2021/06/28

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

脚本だったりバラエティの企画だったり、
他人に影響を受けることは多々あれど、
私が最も誰かに左右されてきたのが食なのである。

父が生ものを苦手としているせいか
五島列島で育ったにも関わらず、
大学を卒業する頃まで刺身が食べられなかったし、
牛肉の焼き加減はウェルダン以外はダメ、
レバ刺しなど見るのも嫌だった。

ところが、
社会に出て他人と会食する機会が増えてからは、
苦手としていた様々な食べ物を
美味しそうに食べる方の姿を多く目にすることで、
食の素晴らしさ、多様性を感じ、何でも食べられるようになった。
今では、刺身は好物だし肉はできる限り生で、
レバ刺しに関しては死んでもいいから食わせてくれと思っている。

そんな私が、
新しく出会った人に必ずと言っていいほど聞くのが、
「一番好きな食べ物は?」なのである。
寿司、ラーメン、焼肉などという平凡な答えが返ってくることもあれば、
りんご、白米、卵など、どシンプルなものもあるが、
大体の場合、その人その人が熱を持って話してくれるので、
長くても聞けるトークが展開されるし、
影響されて好きになることもしばしばである。

最近、衝撃を受けた答えが「春巻き」。
正直、今まで一度も美味しいと思ったことはない料理だった。
「一番好きな食べ物が春巻き!?嘘やん」
そう思ったし、言ったし、滅茶苦茶バカにした上で、
「じゃ、春巻きの良さをプレゼンしてみて」と言うと…
・パリパリの皮
・ひき肉、きくらげ、ニンジン、春雨などの具材のバランス
・火傷するほど熱々の餡
など、春巻きの素晴らしさにシズル感を添えた
見事なプレゼンテーションが返ってきた。
終わるころには口が春巻きになっていた。
とどめは「荒木さん、一番好きな食べ物”熱”でしたよね?」

たしかに、私は一番好きな食べ物を聞かれたら”熱”と答えている。
寿司と答えた後輩に「普通。トーク広げようとか思わないの?」とダメ出しした。
卵と答えた親友に「それ食材やないか」と突っ込んだ。
”熱”なんて、料理でもなければ食材でもない。
一番バカだったのは自分だったのだ。

今、二日に一度のペースで春巻きを食べ続けている。
春巻き、熱っちい…うめぇ。