オムライスに学ぶ

2021/10/25

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

近所にあるオムライスの店は、9割が女性客で
オムライスをインスタ映えのダシとしか思っていないであろう
若者たちの巣窟と化している。

その店に初めて入ったとき、
オムライス歴30年の自称オムバカの私は、
そんな女子どもに男の気合いを見せてやるとLサイズを頼んだ。
運ばれてきたのは、半切りのラグビーボールだった。

「おいおい、冗談だろ?オムライスといえば黒板消しサイズだろうよ…」
量は普通のオムライスの3倍。
さらに、ごはんをバターライスにしてしまったので、
終盤でスプーンが止まることは目に見えていた。

そんな中、映えしか考えていない女子たちは、
私のオムライスを見て「撮っていいですか?」と群がり始める。
違う、違う、そうじゃない。
完全に逃げ道を失った私は、体感2時間かけて、
そのオムライスを食べきるという拷問のような時間を過ごした。

この国では、大きく見えるが、じつは小さく、
大抵は質の悪いものが運ばれてくるのではなかったのか?
人を期待させておいて残念でしたのパターンは、
やっちまったもん勝ちの精神を持つワルの常套手段だ。

その姑息な策略が嫌われてきたのだろうか。
最近は、ごまかすことなく量で攻めてくる店が増えてきたように思う。
先のオムライスもそうだし、全国にチェーン展開するコOダ珈琲店もそう。
二日酔いで頼んだピザトーストは、確実に胃袋を制圧しにきていた。
アメリカのバカな子どもが食べそうなピザトーストは、
湯でたアスパラを一本だけ食べたい二日酔いの朝には合わない。

そもそも人間は贅沢だ。
少なければ怒り、多ければ怒る。
その基準は人それぞれで、すべての人に受け入れられるサイズはない。

サービスとは受け取る側の器にも問題がある。
サービスを受けて過剰だと突き放すのは心がせまい。
こっちはどんと構えてやるから、良かれと思うものを出してきて欲しい。

私も自分がよかれと、面白いと思ったことを
世に出していこうという戒めも込めて…。

ただ、先のオムライスの店はメニュー写真を変えた方がいいと思う。
大きいものから小さいものまで並べて撮るとか。
一品ずつだと比較がまったくできないので!