セルフ飯テロの果て

2021/11/22

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

前回、米の話を綴ったところ、
急に白米が食べたくなって近所の定食屋さんへ。
ロースカツ定食を注文したのだが、
出来上がる頃合いになったときに店員さんが寄ってきてこう言った。
「ただいま、白米を切らしておりまして、
 炊き上がるまでに30分ほどかかります。
 五穀米ならすぐにご提供できるのですが…」

白米が切れているのを注文から10分ほど経ったところで
告知するシステムに「なんだかなぁ」と感じたが、
カチンときたのが彼らの薄ら笑いである。

謝罪のプロである私から言わせてもらえば、
謝罪には、文面にしろ対面にしろ、
いかに申し訳ないという気持ちを伝え、
欲を言えば同情を引き出すぐらいのテクニックが求められる。

今まさに米泥棒に遭って、炊き立ての白米が盗まれた。
そんな状況の表情とは困り顔というよりは泣き顔に近く、
断じて笑顔ではないはずだ。
私は彼らの薄ら笑いを見て、
価値観のズレが人間関係を壊す一番の理由であることを確認した。

おそらく、向こうは「五穀米があるだけラッキーだろ?
むしろ、栄養たっぷりの五穀米でよかったな」ぐらいの腹づもりだ。
しかし、私は炊き込みご飯をはじめ、白米以外の米を
まったく受け付けない透明少年であることを彼は知らない。

白米がないことを理由に怒って帰ってしまうのは
大人として上品な選択ではないから、
仕方なく五穀米でロースカツを食べることにしたが、
すべてにおいて不満しか残らない食事となった。

男女や友人の関係が破綻するのはだいたい価値観の違いで、
きみきみ、そりゃないだろと思っても、
相手はそれが正義だと思っているから、そこに悪意はなく、
こちらが諭すのは向こうにとってみれば理不尽な話となる。
こうやってギクシャクしていくのだ。

ちなみに、私はいつも受け入れる側。
スポンジのように相手の意見を受け入れ、
胸にモヤモヤを抱え、腹には五穀米と、
とにかくストレスを抱え込んでいるので、
皆さん、できれば優しく接してあげてください。