好きを貫け~どの口編~

2022/01/24

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

五島列島で育ちながら、
魚介類の好みが偏っていて、
とりわけ高級といわれるウニやイクラを大の苦手としていた。
寿司でも食べるのはタマゴやサーモンばかり。

しかし、それはそれで楽しめたし、
安上がりでいいんじゃないか。
高いものを無理して
気取りながら食べるなんて虚しすぎる。

ひねくれ者というわけではない。
高級食材の中にも好きなものもあった。
アワビとか。
蒸したやつを薄切りにして、
刺し身のようにわさびと醤油で食べる。
当時はありがたみも分からず口にしていたが。

無理して嫌いなものを食べなくていいし、
好きなものが安価だったらなおよし。
身の丈に合っていて自らが満足できれば充分だ。

先日、どこかの自称美食家が書いた
牛丼チェーンで昼食を済ませるサラリーマンを
揶揄するかのような記事を目にした。
貧乏だのなんだの、一食一食を大切にしていないだの
余計なお世話以外のなにものでもない言葉に、
なんだかなぁと呆れてしまった。
回転寿司なんて入ったこともない、とも書かれていた。

高級寿司屋も悪くはないけど、
おいしくて好きなだけ食べられる回転寿司もいい。
さらに居心地がよければ最高。

人の好みはそれぞれで、
好きなら好きを貫き通せばいい。
若者よ、既存の常識という名の偏見に騙されてはいけない。
爪を研げ、五感を磨け...は言いすぎにしても、
好きなものを主張するぐらい許されるんじゃないか。
そう思っている。

...なんてカッコつけてみたが、
昨年末、銀座界隈で仕事があり、
スタッフとお寿司屋さんで昼食をとったときのこと。
本当はサーモン丼を食べたかったのに、
周りの目がなんとなく気になり
ついつい豪華な海鮮チラシを...。
本当に好きなのは散りばめられたタマゴと酢飯だけ。

一番年下のADさんが頼んだ
サーモン丼をうらましく思いながら
「サーモン丼、どう?」と聞いてみると
「普通です!」と。
そうかと思いました。