幼き日の記憶

2022/02/21

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

幼き日の嫌な思い出は
大抵、記憶の押し入れの奥にしまわれているが、
ふとした瞬間にその押し入れから
転がり出てくることがある。

小学校3年で入ったソフトボールの顧問の教師に
エラーする度にフルスイングびんたを食らったことや、
グラウンドそばの土の中から何年も前から埋まっていたであろう
古びた金属バットが出てきたときに
道具を大切にしろとグリップでどつき回されたこととか。

いや、ソフトボール絡みの記憶ばかりかい!と
お思いかもしれないが、
急に思い出したときは、
現在の居場所を突き止めて復讐してやろうかと
本気で思ったものである。

幼き日のトラウマといえば...
「ドゥルドゥルドゥルドゥール。ぼうけんのしょ1がきえました」
これがマックスかもしれない。

友達に貸していたドラクエ3をセットしたら
嫌な音が流れたあの日、
私は初めて人を殴りたいと思った。

マリオ3の1upの裏技をできなくてバカにされたときも
友達を殴りたいと思った。

ファミスタで俊足のピノに引っかき回されて、
出られるたびにホームまで到達されたときも
言わずもがなである。

いや、ゲーム絡みの記憶ばかりかい!と
お思いかも知れないが、
俺にとってファミコンは敗北の歴史で、
思い出したくもない過去ばかり。

そのソフトたちが今になって、
押し入れから出てくるとはどういうことか。
なにか不思議な気もするが、
もう、ぼうけんのしょが消えることはなさそうである。

なぜなら本体がないから。

ああ、そうだ。
俺、本体を友達に盗まれたんだった。