2022/03/21

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

今週中には、東京でも桜が咲くらしいですね。
五島列島に住んでいるころは、
桜になんて興味はなく、
花見など一度もしたことはなかったけれど、
上京してからは雑誌で花見スポットを積極的に調べて
近場であれば一人で見に行くほど惚れ込んだものです。

枝のしなり具合を評価し、
幹に手をかけて桜と会話できるまでに成長し、
多摩のあたりの桜たちからは
話のわかる若旦那として認められています。

そんな私がひょんなことから
桜の名所として知られる目黒川近くに
越してくることになったわけなのですが、
桜でいったらスター選手の彼らが
訴えかけてくるのです。

最近、花見客のマナーが悪すぎるって。
俺たちをつまみに飲むのはかまわないけど、
幹に酒がかかってんだよね...。
安酒ばっかり吸わされるこっちの身にもなってくれよって。

それから、
知り合いの桜である細木さんは、
夜遅くまでの宴会はヤメてくれって。
「俺、来年の2月で300歳よ、
早寝しないと体がもたないのに夜遅くまで
さくらぁ~、さくらぁ~って。
直太朗は聞き飽きたよ。
このままじゃ、体も細くなって死んじまうよ。
まぁ、名前は細木なんだけどね...ってやかましいわ!」

目黒川沿いを歩くと、
こういった苦情を耳にするんですよね。

例えば空に輝く星みたいに、
美しいものは時代が変わっても
同じように見えるよう作られていると
私は思います。

名前も知らないご先祖様に美しい姿を見せ、
これから生まれてくる子どもたちのことも
同じ姿で待っていてくれる優しい桜に、
僕ら人間は冷たすぎやしないでしょうか。

一年に数週間しか見れない
元気な姿をもっと敬い大切にすれば、
別れ際の桜吹雪は
もっと名残り惜しく
尊いものになるかも知れません。

わかんないですけど。