モシャモシャモス

2022/04/25

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

物書きになってかなりの月日がたったが、
はじめの頃はもっと文章がうまくなりたいと
そう思っていた。

いやいや、そんなの作家の肩書きを
得る前に気づけという話だけど、
死ぬまでそう思わなかった可能性を考えれば、
初期の段階で気付けたことを良しとしよう。

という訳で当時の私は
25万円もしたパソコンを開き、
「文章 上達」で検索。
すると出てくる出てくる。
ありきたりなのは、文字に触れる読書だろうが、
読書に関してはドラゴンボールをはじめ、
数々の書物を目にしてきた結果、
これといった効果はなかった。

他になにかないのかと深く探していると、
「模写」なる一文を見つけた。
模写...すなわち、小説を丸写しすることである。
そうすることによって、
文章の基本から物語りの構成を
体に染み込ませるわけだ。

なるほど、これはいいかもしれない。
アドバイスとして短編集がおすすめとあったので、
良きアドバイスをありがとうございますと
心で一礼したのち早速挑戦してみたのだが、
早々に次のような感情が芽生えた。

「面倒くさっ!」

一字一句を追いながら、
パソコンで打ち込むことの作業は辛く、
本を読むことに少しは慣れがあるから、
先に目がいってしまい、
目を戻してゆっくり写していく作業が
とにかく面倒で苦痛なのだ。

それでも、気持ちを切り替え、
何かを得るためにと集中していると、
今度は入り込みすぎて、
その作品が自分のものに思えてくる。
これは悪魔の仕業に近い。
悪く言えば人の作品をパクっているのに、
自分の作品に思えてくるなんて、
それこそミステリーの殺人動機でありそうだ。

本来なら、文章の構成などを学ぶために、
一句一句をかみ砕けばいいものを、
面倒だと思った途端に
盗作気分へジャンプしてしまう私は、
これまで同様、少年漫画を読んで、
これからも童心を忘れない人間でありたい。

そんな結論に達し、
当時模写した原稿はアパートの庭で燃した。

模写模写燃す。