贅沢弁当

2022/05/16

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

「活躍の割に年棒が低い選手」
2位に大谷翔平選手がランクイン!
ネットでそんな記事を目にした。

低いと言えど、その額6.2億円。
日給に換算すると単純計算約170万円。
桁違いとはまさにこのことで、
庶民にはピンとこない額ではあるが
我々も地味に様々な金額と戦っている。
庶民には庶民の戦いがあるのだ。

これまで多くの人を迷わせてきたのが、
「食」にまつわる金額ではなかろうか。
惣菜が半額になる午後8時を見計らって
スーパーに駆け込んだり、
本当なら和牛のステーキを食べたいけれど、
産地を偽装されているかもしれない
デカいだけが取り柄の肉で我慢したりと、
小さな戦いは日々繰り返されている。

カイジの地下工事の班長・大槻は、
欲望を溜め込むことはストレスになるから
ここぞというときに発散せよと言っていた。
欲望を満たすことで明日の糧になると。

なるほど一理ある。
私の贅沢は食でいうなら高級弁当だ。
普段は弁当屋で500円程のものを選ぶが、
帰省する際に乗る新幹線の中でだけは
1000円以上する駅弁を食べる。
傍らにはキンキンに冷えた缶ビール。
贅沢の極み。

そんな私に、僥倖としか思えない
体験をさせてくれたのが、
大御所がMCを務める番組の楽屋弁当である。
なんとスタッフの分も大御所と同じもの。

見た目はこってりした中華弁当だが、
卵にはフカヒレ入りの餡がかかっていて、
その他の食材もいちいち高級で
一人前3000円超。
食べられる機会はそうあるものじゃない。

受け取ると、私は興奮を抑えながら
クリスマスプレゼントの箱を開くが如く
ゆっくりと蓋を持ち上げた。
すると、そこには...
チャーハンの上に鎮座する黒い虫。

見ていたディレクターが
「中華食材ですかねぇ」と、
要らぬボケをかましてきたが
それに返せないほど動揺した。

まあ、見なかったこと、
聞かなかったことにして完食したが、
全部込みで金額に換算すると300円。
私にはこれぐらいがちょうどいい。

身の丈に合ったものを慎ましく食し、
元気に笑って生きていく、
それ以上の贅沢が他にあるだろうか。
そう思うことにした。
そう思うしかなかった。