外の世界、彩

2022/09/12

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

このコラムを綴っている本日、
久しぶりに番組収録の現場に立ち会った。
なんとなく、本当になんとなく、
ゆるっと、ぬるっと、しれ~っと、
自粛ムードが解けた感じになっているが、
私の中では、まだまだ継続中。
ひと月ほど前のたった一度の外出で
濃厚接触者になってしまったこともあり、
本心では、全力で行きたくなかった。

いざ、外出するとやはり様々なことが起こる。

出かけたのは昼過ぎ。
玄関を出たらドアの前にセミの死骸があって、
避けようと反射的に体をひねったら、
足首がぐにゃりとねじれた。
セミよ、死に場所はもう少し考えてくれないか。

足を引きずりながら郵便ポストを確認すると、
身に覚えのない会社から大型テレビ当選を知らせる
ハガキが入っていた。
今時、こんなものに騙される人間がいるのか。

苦笑いを浮かべて歩き出すと、
足が痛いことを思い出しスローダウン。
そこに主食=人肉を思わせる巨大な犬が現れた。
リードはついていない。
足が痛くて走って逃げることはできないし、
何も見なかった、彼も見なかったことにして欲しいと、
くるりと踵を返し、気配を消しながら徒歩で逃走。
背中に見えざる何かを感じるが、
飼い主は一体、何をしているのか。

角を曲がり一安心していると、
顔見知りの管理人のおじさんが立っていて、
ほれほれと、容器に入った団子を差し出す。
ジジイ、いらねえよ...。
喉から出そうになった言葉をグッと飲み込み、
笑顔でそれを受け取り、
足を引きずりながら最寄り駅へと向かった。

玄関を開けてたった3分の間に
これだけのことがあった。
引きこもっていたら起きなかったことばかり。
生きるということは、
外の世界と関わっていくことなのだろう。
外へ出てみれば何かが起こり、
人生に彩を与えてくれる。

ただ、
その何かが良いことだとはかぎらないし、
色彩がパステルカラーだとはかぎらない。

帰りのタクシーにスマホを置き忘れ、
1時間おきに公衆電話からタクシー会社に
連絡し続けている今、
私は、切にそう思っている。
なんとなく、腹が痛い気もしている。
団子...?