大事麺ブラザーズ

2022/10/17

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

時は2022年。
そこら中に電波が飛び交い、
利便性だけが先行している現代ではあるものの、
ホテルの設備は一流と呼ばれる場所を除いて、
昭和で止まっているような気がしてならないのです。

パッと思いつく現代っぽい設備は無線LANくらい。
しかし、カズレーザーではないが、
虚空に手を伸ばせば掴めるほどのWi-Fi電波が
飛び交っているのに今日日無線LANて。

それから、
細かい温度調整のできないエアコン、
小便小僧みたいな勢いのシャワー、
チワワの息みたいなドライヤー、
九州の冬くらいの温度の冷凍機能なし冷蔵庫と、
欠点に関しては枚挙にいとまがない。
ただ、これらはほんの些細なことで、
生きていく上で決定的なダメージを受けることはない。

肌寒い?
ずっとベッドで過ごします!
シャワーが弱い?
湯船につかります!
ドライヤーの風が弱い?
20分かけて乾かします!
何なら自然乾燥させます!
アイスを保存できない?
いますぐ食べます!
ホテルに着く前に食べきります!

人間は誰しも環境に慣れるもので、
食と睡眠さえ確保されれば、だいたいセーフ。
そう、最も大事なのは食である。

今年の1月、
深夜に都内のホテルにチェックインをした。
近くの飲食店は閉まっていて、
コンビニで買ったカップラーメンをすすろうと、
部屋にあったケトルでお湯を温めた。
なんだ、ケトルは置いてあるじゃないか。

一般のケトルより長い時間をかけ、
10分後、蓋がカタカタとなった。
お湯が沸いたサインである。
ところが、
いざ、お湯をカップに注ごうとしたとき、
私は青ざめた。
このケトル...小さくないか?

やや大きめのカップラーメンにつき、
お湯が足りないケースも考えられる。
味が薄まるのが嫌だから、
目安の線の少し手前までしかお湯を入れない私でも、
まったく足りないのは困るし、
2杯目を沸かすには時間がかかりすぎる。
しかし、お湯を沸かした以上、攻めてみたい。

頼む、神様、仏様、お湯様、
どうぞ粘り腰を見せてくださいと、
ケトルを傾けたところ、
途中で明らかに手応えが悪くなり、
目標のラインまで届かないことを確信。
結果、スープは塩辛く、麺にだいぶ吸収され、
はっきり言ってまずかった。

この日は食の恨みからなかなか寝付けず、
一睡もできないまま太陽を迎えた訳だが、
半年以上前のことを鮮明に覚えているというのが、
食の大事さを物語っているのではなかろうか。