鬼畜眼鏡と呼ばれたい

2022/11/21

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

有名人じゃないかぎり、
公共の場で本名以外の名前で呼ばれることは少ないが、
放送作家もペンネームを使う方が多く、
自らをより印象付けられる名を名乗ることは珍しくない。

同世代であれば、
デーブ○坂さんや永○ふわふわさんなどがその例で、
ひらがなやカタカナに直すパターンも含めると、
体感ではあるが3分の1くらいの作家が
ペンネームを使っているように思う。

どの業界でも同じだとは思うが、
これとは逆に、
本人が知らないところで別名で呼ばれていることがある。
ソフトでどこか親しみのある名ならまだいいが、
身体的特徴や人間性の負の部分に触れるのはご法度。
もしも、そういうあだ名をつけるとしても
最低限のマナーとして、
例えば「くん」や「ちゃん」を付けるのが吉。
大分違った印象になるので、ぜひお試しを。

これを読んでいるあなたも、
もしかしたらネットの中など、裏で予想だにせぬ
呼ばれ方をされているかもしれないことだし、
相手がどんなにねちっこいムカつく上司だとしても、
「荒木粘着くん」などと呼んでおいた方がよい。

閑話休題。
自分には密かな夢がある。

将棋の羽生善治9段は、
ファンに鬼畜眼鏡と呼ばれているのをご存じだろうか。
鬼畜とは、そのままの意味ではなく強さを表現したもの。
羽生マジックと呼ばれる鬼手に終盤の大逆転撃。
相手にすれば、目の前の眼鏡は鬼畜以外の何者でもなく、
その強さを反映した最上級の表現として
鬼畜と呼ばれているのだ。

ああ、私も呼ばれたい。
プロデューサーやディレクターや
その他スタッフから鬼畜眼鏡と呼ばれたい。

「あの鬼畜眼鏡、今日も企画通してるよ」
「あの鬼畜眼鏡、美人プロデューサーの愛人らしいよ」
「鬼畜眼鏡、あの番組もやってるらしいよ」
「鬼畜眼鏡、まさかの大スベり。明日、雪なんじゃね?」

考えただけで武者震いがする。
マナーをはじめ、周りに迷惑をかけることなく
ただ人より仕事ができる。
それだけで妬まれ、羽生さんと同じ呼ばれ方をされたら
どれだけ気持ちがいいだろう。

とりあえず、眼鏡を買いに行こうか。
そう思いながら、
低視力率の高い作家界のリモート会議にて、
眼鏡愛用者の顔を眺めながら
形や色を参考にしていたら、
これから鬼畜眼鏡になろうとしている自分より、
もう、そのあだ名をつけられていそうな
人間を発見した。

秋元康。
此れを超えるために
眼鏡をかけ始めるのは遅い気もしている。