或る挑戦

2022/12/05

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

最近、近所で当たりつき自販機を見つけた。
遊び心を忘れない企業、ダイドードリンコのアレだ。
それからというもの、
家の目の前にある自販機ではなく、
ちょっと歩いて、その自販機で購入している。

この自販機のシステムは、
4桁の数字が揃えば大当たりとなるタイプ。
必ず3桁目までが「テンパイ」し、4桁目がスローになって
結果的にひとコマずれて「3334」や「8887」となり
ハズれるのである。

これまで10回ほど購入しているが、当たりはなし。
もちろん、そう簡単に当たるとは思っていないが、
そもそも「無抽選」であるという被害妄想が払拭できない。
そう思っていたところ、
これまた近所に同じタイプの自販機を見つけたのである。

この先、こっちで10本、あっちで10本と購入し、
長い期間を費やしてサンプルを採ってみようと
新たに発見した方でジュースを購入したところ、
止まった数字が...

「2409」

完全なバラけ目。
ゲーム性は皆無。
人をあざ笑うかのように高速で上記の数字が停止したのだ。

一瞬、電子マネーの残額だと思ったくらいのハズレ。
こんなことがあっていいのだろうか。
目と鼻の先に設置されている同じ自販機のゲーム性が
全く違うとはどういうことか。
このときは唖然として、
危うく三ツ矢サイダーを取り忘れそうになったが、
家に帰って冷静になってみると、
二つの疑問...というよりは二つの興味がわいてきた。

ひとつ目は、
この自販機こそ無抽選なのではないか
という被害妄想新説。
必ず3桁までテンパイする自販機は、
ボタンを押したときではなく、
テンパイしたときに抽選を行っているという
仮説を立てると納得ができる。
もはや、自販機に抽選する意思がないというか、
プログラムが飛んでいる状態だと、
そういった現象が起こるのではないかという点。

そして、もうひとつ、
仮にこの自販機が何分の一でもいいから
正常に抽選されていたとしよう。
そうだった場合、非常に興味のある問題にぶち当たる。
ヒントはこれまで一度もテンパイしていないこと。
勘がいい方ならピンときただろう。

「もし、テンパイしたらどうなのか?」

これである。
当たり確定か、それともテンパイしたら
そこから3分の1くらいの完全抽選なのか、
ともあれ、
高確率で当たることは間違いないと思っている。

今、自分がもっとも見たいのが、
この自販機のテンパイで、
幾度となくハズれても探究心が折れることはない。

楽しいことや面白いことはわかりやすくシンプルが一番。
ただ、シンプルの裏に隠された
ちょっとした奥ゆかしさも必要で、
それは、映画でもお笑いでも同じことがいえる。
たとえ、これらの仮説がまったく見当違いでも、
意味がなかったとはまったく思わない。
どんなに小さなことでも気になったら挑戦してみる。
それが私の生きがいだからだ。

いつの日か、この自販機で大当たりを引き当て、
ダイドードリンコの本社まで届くぐらいの
雄叫びを上げてやりたい。
そして、涙で霞む目でお茶のボタンを押し、
それを誇らしげに持ち帰って、
安焼酎をウン万円を費やしたお茶で割る。

それを引き当てるまでの武勇伝を、
好きな女性の前で語ることを肴にして呑めれば、
これ以上の喜びはない。
そして、言うのである。
「さて、次はどんな挑戦をしようか」