断りのプロ

2022/12/19

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

定期的に我が家を訪れる、
嘘でしょ!?系の人々の話、その7。

会議の合間に海外ドラマを見ていた昼下がり。
不意に家のチャイムが鳴り、
インターフォンの受話器を取ると
男が少しだけ時間をくださいと言ってきた。

どうやら幼児向けの教材を販売しているらしく、
是非、話を聞いてほしいとのこと。
そこで、相手が少しでも強引な交渉に出たり、
癪に障れば受話器を置くことを心に誓い、
話を聞くことにした。

男の話はこのようなものであった。
現在の小学校は、
勉強が得意な子と苦手な子の格差が生じている。
よって、小さいころからの教育が重要…と。

自分はその男の話に聞き入り、
始めは熱心を装って相槌をしていたのだが、
話の終盤にきて彼が放った一言にカチンときた。

「きっと、お父さまには今の小学校一年生で習う問題を、
お子さまに教えられないと思います」

真昼間に家にいるからか、
それとも乾いた相槌が気に食わなかったのか、
奴はこんなことを口にした。
さぁ、切ろうとすると、
その空気を察したのか、男は急に、
この問題を解いてくださいと言ってきた。

「6+7=○+△+□=13」
この○、△、□に入る数字を答えてください。

ナメるんじゃないよ
とりあえず、その日の日付を軽くアレンジし、
数字1・2・10と答えると、
男は大きな声で
「ブーッ」とインターフォン越しとは思えない
テンションで不正解を告げた。
そして、私の回答は正しいのだが、
現在のテストではバツをもらうということを
偉そうに教えてくれた。

ちなみに、正解は6・4・3とのこと。
なにやら10進法がどうのこうの言っていたが、
自分にはさっぱり。

ひとしきり聞いたところで、
切り札として取っていた
独身であるという事実を告げると、
「将来お子様が~」と続けてきたので、
止むを得ず、ガチャ切りしてしまったというお話。

彼には、
リモートで仕事をできるようになった今、
昼に家にいるのは普通であること、
中目黒の住宅地にも独身の人間は多いこと、
そして、なにより私が、
マルチ商法の勧誘40人に囲まれながらも
論破して生還した断りのプロであることを
理解していただきたい。