北極点で恵方巻は食べられない

2023/02/06

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

長引く会議の合間に昼食を摂ることになり、
ADさんに「センスで」とお遣いを頼んだら、
買ってきたのは恵方巻。
さあ、どうぞと無茶ぶりしてくるので、
「食べられるわけないじゃない」と
一笑に付したのが2月1日のこと。

ノリの悪い作家だと思われたくなくて、
「恵方が分からないから」とそれっぽい言い訳をして
乗り切ったわけだが、
考えてみると本当に今年の恵方が
どの方角なのか知らないし、
わかったところでGoogleマップのGPSでも使わないと
正しい方を向くこともできない。
面倒くせぇ。

そもそも、会議室で恵方巻を食べるなんて拷問でしかない。
恵方がたまたま会議メンバーの方とは逆だったらいいが、
お弁当を食べている他の面々を向いて食べる場合を考えたら、
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
何気なく目線を移したら、
美人APと目が合った...となったらどうするのか。
あのADの野郎...今更だが、腹が立ってきた。

それに私、実は太巻が嫌い。
偏食だった幼少期には、
玉子以外の具を全部抜いて食べていたのを思い出す。

しかし、今回の恵方巻は思いのほか値の張るものだし、
縁起物だから家で食べようとお持ち帰りしたけれど、
やっぱり方角がわからない。
いちいち調べる気にもなれず、
仕方ないから口にくわえたまま立ち上がって、
バカみたいに体をぐるぐる回しながら食べた。
これなら必ず一瞬は正解の位置を向いて食べられるし、
北極点か南極点以外なら間違いない方法だろうし、
読んだ皆様は、来年からマネをしてくれてもいい。

恵方巻を食べたのは、実に10年ぶり。
前回食べたときには、
まだ恵方巻の文化は東京に根付いておらず、
嬉々として買ってきた友人は、
綺麗に切り分けて出してくれた。
職業柄か恵方巻がなんたるかを知っていた私は、
大笑いしたものだが、
何故笑われているのかも分かっていなかったなぁ。

10年ぶりに食べた恵方巻の味は、悪くなかった。
海鮮が色々入っていて豪華だったし、
一本で腹も膨れたし、
もうあれは「太巻き」の範疇を超えた何かだ。

もう買うことはないと思うけれど、
食べたからにはご利益にはあずかりたい。
恵方巻にどんな効果があるかわからないが、
マグレでもいいから、
ゴールデン番組の新企画よ、通ってくれ。

恵方巻には次の一本で結果を出してもらわなければ、
来年からは、毎年このコラムで
廃止することを国民に訴えていくと脅しておこう。