オヤゴコロ

2023/03/27

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

これって何なんだろうと思う。
いや、正確には思った。
スタッフと別れ、ひとりになった山手線の中で。

私がやっている劇団にお話しをいただいた
ウェブCMの収録でのこと。
「はい、これで終了です!お疲れさまでした!」
丸一日の収録だったので疲れていた。
前日ほとんど寝ていなかったため余計グッタリ。
早く帰りたい。
早く帰ってゲームとかしたい。

しかし、控え室が結構散らかっており、
掃除をスタッフ任せにするのはどうかと思った。
自分たちが使っていたわけだし、
入ったばかりだというADさんは手一杯でアタフタしている。

そこで、他のスタッフと一緒にゴミを集め、
ソファのカバーの寄れを直し、
最後に電気を消して控え室を出たらもういない。
うちの役者3人とも。
もしかして駅で待ってるのかなと思ったが、
いやしない。

私だけ破格のギャラをもらってるなら
そんな仕打ちも甘んじて受けるが、
私はビタ一文貰わない。

主宰とは名ばかりで、いわばただの付き添い。
それでいながらゴミを集め、ソファーカバーを直し、
スタッフさんに労いの言葉を掛ける。
時にやりやすい環境にしたいと関係者と話し合いをもったり、
役者の尻拭いをしたりもする。

なのにアイツら、さっさと帰るんですわ。
「お先です」、そんなメールも寄越しゃしない。
1日で10万円以上貰える仕事を振ってあげたのだから、
「飲みに行きましょう、奢りますから」
くらいのことはあってもバチは当たらないのではないか。

つくづく損な役回りだと
人もまばらな山手線で深い溜め息も出たが、
これって親と子の関係に似てるのかなとも思った。
我が子が思う道を進めるよう、
見返りを求めることなくただ粛々と
足を取られそうな雑草を刈り続け、
それを幸せとする。

今置かれた境遇は、
子のいない私に神が与えたもうた幸せである...。
良いも悪いも含めた経験を今より積んで、
もう一周ぐらいすればそう考えられるのかなと、
背もたれに体重を預け、静かに目を閉じ、
気が付いたら...
山手線をグルリと一周していた。

電車でこんなに寝られたのは初めてだ。