ア・ラ・モード

2023/04/03

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

その時、私は迷っていた。
迷いに迷っていた。
四十にして惑わずなどと誰が言った。
齢四十、迷わずにはいられぬ状況に陥っていた。

今回、
私を惑わす憎き敵はプリン・ア・ラ・モードである。

プリン・ア・ラ・モードの「ア・ラ・モード」とは
「流行」や「現代風の~」を意味する。
プリンの周囲にバニラアイス、ホイップクリーム、
チェリー、パイン、メロンが
美しくトッピングされた様は、
なんだか昭和だが、
それがまた良いのである。

コロナ禍もあり3年振りか。
ならばこちらもそれなりの覚悟で食さねばならぬと、
おしぼりで手をよく拭いてから
跳び箱を逆さにしたような形のスプーンを手に取ったが、
その手がどうしても動かない。
いや、動かせないのである。

ひと口目に主役であるプリンは選択肢としてあり得ない。
下位打線にも活躍の場を与えるのは
野球もア・ラ・モードも同じことである。

具材を格付けするならば、プリンは大谷、メロンは吉田、
チェリーは近藤、パインは村上でアイスはヌートバー。
となるとホイップか。
ホイップ源田が妥当な選択か。

しかし、包み込むような甘さを持つ
ホイップクリームを先に放り込んでしまうと、
他の具材を殺しかねない。
中でもパインは致命的。
打力に欠ける源田以上に
しょっぱい感じになるのは目に見えている。

パインを見殺しにしてのホイップか。
勝ち負けを優先、
ルールを無視してプリンからいくか。
ホイップか、プリンか、プリンか、ホイップか...。
スプーンを構えたまま固まっている内、
徐々にアイスが溶け出してくる。

急がねば。
誰かに助けを求めるかのように周囲を見渡すと、
後輩の頼んだクレープが目に入った。
プリン・ア・ラ・モードよりも遥かに具材が多く、
ゴージャスに仕上がったその一品、
果たして彼は何を最初に口に放り込むのかを考えつつ、
私はこう言った。

「あの、交換しない?」

ガラスの十代を通り過ぎた大人の四十代。

「あ、いいですよ!」
後輩の顔は引き攣っていたが、
その瞬間私は、
ク・リ・ヤーマになった気がした。