肘掛け戦争

2023/04/24

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

私が40を迎え、
叔母が還暦、
祖母が米寿と
たまたまタイミングが重なったため
来月末に親戚一同(2000人)が集い、
長崎の諏訪神社で祈祷をしてもらうことになった。
荒木家は、そういった節目の行事は、
そこそこ大事にする家なのである。

そろそろ長崎行きの飛行機を予約しなければ。
昨日の夜の計算では、
企画書を午前中に終わらせ(1)、
昼過ぎに台本を書き上げた後(2)、
街をぶらつきファンシーなマグカップを戯れに購入し(3)、
ハンバーガー屋でスクラッチを削って5千円損し(4)、
その悔しさをMPPコラムにぶつけ(5)、
送信ボタンを押した後にふと掛け時計を見ると
時計の針がてっぺんを指していて、
その後、
朝までの時間にじっくりと飛行機を予約する...
はずだったのだが、
上手くいったのは4番だけ。

しかも、5千円どころか7千円損したのは、
まあ、いいとして、
3番をすっ飛ばしてようやく
5番に突入したところで
既に23時を回っているルーズな私は、
ジャンボジェットに乗ると
必ず戦争に負けてしまうから、
早く飛行機の予約サイトに飛ぶべきなのである。

ジャンボジェット内における戦争とは、
肘掛けを巡る戦争、
つまり肘掛け戦争である。

月曜日の朝に更新される原稿を
日曜日23時に書き始めるぐらいだ。
当然、搭乗手続きもギリギリである。
「である」などと威張って言うことでもないのだが、
ギリギリに手続きすると、
ほぼ例外なく窓側は取れない。
通路側も一杯で、真ん中の席。
そして、手続きのみならず搭乗まで
ギリギリになるとどうなるか。
左右両方の肘掛けは敵によって占領。
敗北感を存分に味わいながら、
着陸まで3人席の真ん中で
こじんまりしていることになるわけだ。

植木算すると、
3人席には肘掛けが4本ある。
となれば、1人につき最低でも1本は行き渡る計算なのに、
私には1本も回ってこない理由を
手続きの遅さに求めては、
こじんまりするのが別の人間に代わるだけ、
解決にならない。

ここで必要なのは慎ましさではないのか。
「どうぞどうぞ」
「いやアナタがどうぞ」
といった慎ましささえあれば、
肘掛けに限らず世界で起きている
ほとんどの戦争はなくなるように思うが、
今の私は遠慮している場合ではないので、
はっきり言う。
これから30分以内に飛行機を予約しないと
早割りが利かなくなり、
飛行機代が倍になる。

なので、申し訳ないが、
今回は、この辺で筆を置かせていただきたい。

私が、飛行機を死ぬほど嫌う理由は、
またの機会に...。