イルカハラスメント

2023/05/01

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

「次、同じミスしたらイルカと泳がすぞ!遠洋で」
「えっ!?イルカと泳いだことないの?だっさ!」
「中大兄皇子と中臣鎌足に暗殺されそうな顔してんな」
「お前のデスクをイルカグッズだらけにしてやろうか!」

私が「イルカハラスメント」という言葉を目にして、
初めにイメージしたのは、このようなものであった。

「ハワイでイルカハラスメント発生」。
先月初旬にネットを賑わせたニュースだ。
この事件は要約すると、
「ハワイを訪れて海水浴をしていた観光客33人が
湾内にいたイルカを執拗に追いかけ回した」
というものらしい。

なるほど「イルカに対するハラスメント」なのか。

ハワイでは、
今回の被害者「ハシナガイルカ」に対して
半径50ヤード(約46メートル)以下に近づくことが
禁止されているそうで、
それに違反した者たちが通報されたということらしい。

そういうことかと思い、
載せられていた画像を見てみると、
10頭のイルカが扇状になって泳ぐすぐ後ろに
4人の男女が追っていた。

確かに近い。

ところがだ、
イルカは逃げるどころか
人間が数メートル後ろに迫っているのに、
フォーメーションを保ったまま優雅に泳いでいる
(ように見える)

...「ハラスメント」とは?

私は、ハラスメントは、
された方が被害を受けたという意識があって、
はじめて成り立つものだと考える。

「イルカは嫌がっていないのでは?」
そういうことが言いたいのではなく、
この場合「ハラスメント」という言葉を使うのは間違い、
そして「罪」だということだ。

そもそも、
「OOハラスメント」は、
OOによるハラスメント、の略であるべきだ。
英語でいうと「ハラスメントbyOO」
「パワーによるハラスメント」=パワーハラスメント。
「性差によるハラスメント」=セクシュアルハラスメント。
「年齢によるハラスメント」=エイジハラスメント。
のように。

「イルカハラスメント」だと
「イルカによるハラスメント(harassment by dolphins」と
取られてもおかしくはなく、
結果、冒頭に書いたような誤解を招くのだ。

例えば、
「ペットハラスメント」は「ペットを通しての嫌がらせ」
なのに対して、
「ドッグハラスメント」は「犬に対する嫌がらせ」
という意味で使われるという。

造語した人間も平気で使う人間も、頭どうかしてるぜ。

このように、
「by」と「of」の区別も付かない阿呆の造語が、
さらに略されたりするものだから、
正当なものも含めた全ての「ハラスメント」において
主張する人間の方が流行り言葉を振り回す
低能だと思われるような悪しき事態が発生している。
イルカの件にしたって、
「観光客33名がイルカへ"接近禁止令違反"」でいいのだ。

キャッチーを求めるがあまり、
本当のハラスメント被害者を貶めていることに気付かなければ
それは「ハラスメント(by)ハラスメント」である。

※イルカが優雅に泳いでいる(ように見える)と
表記したのは、専門家が「イルカは夜行性なので、
脳が半分眠っている状態だからだ」と主張していたからです。
さすがに、半分寝ていてもガチで危険だと感じたら、
イルカでも急いで逃げるわい!!と私は思います。