3.5劇場

2023/05/15

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

今回、このコラムは333回目。
「三日坊主」を111回も乗り越えたと
一瞬だけ自分を褒めかけたが、
ギャランティーを頂いて書かせてもらっている以上、
当然のことなのである。
最近、意外な方々が読んでくれているのも判明して
一層書くモチベーションが上がっており、
1000回を目指して頑張る所存なのでございます。

それはさておき、
先週、たまたまであるが
3という数字にまつわる事件が起きた。

偶然知り合った女性とランチをすることになったのだが
「アニメ、漫画には日本人より詳しい」と豪語するので、
日本人代表として対抗意識が芽生えてしまい
半分、洒落のつもりで
ランチ代を賭けて漫画しりとり対決を挑んでみた。

じゃんけんの結果、先攻は彼女。
「しりとり」の「り」から。
彼女「リングにかけろ」
思いがけない攻撃に一瞬怯みながらも、
私は平静を装い、続けた。

私「ろくでなしブルース」
彼女「すもももももも」
私「(こいつ...できる)燃えるお兄さ...じゃなくてMONSTER!」
彼女「ずるい!タ?」
私「(動揺)タで」
彼女「逮捕しちゃうぞ♪」
私「(なんやそのポーズ)ゾンビ屋れい子」
彼女「こ?攻殻機動隊」
私「稲中卓球部」
彼女「行け!稲中卓球部だけどね、い、だからいいけど」
私「(ぐぬぬぬぬ)」
彼女「BLEACH」
私「ちびまる子ち...中華いちば...珍遊記!珍遊記!」
彼女「(笑)あれ好き!まんゆうきも好き!」
私「(良かった、見逃してくれた)き、だよ」
彼女「き...キングダム」
私「む...無限の住に...(最後が、んの漫画多すぎんか?)蟲師」
彼女「し?し...し...じでもいい?」
私「ダメでしょ」
彼女「だったら、さっきの...」
私「いい、いい、”じ”でいい!」
彼女「じゃりン子チエ」
私「エスパー魔美」
彼女「みこすり半劇場」

私「...なんて?」

隣の客の会話も止まり、
地獄の約7秒が訪れる。
(体感10分)

彼女「(赤面)」
私「なんて?」
彼女「(赤すぎて黒)」
私「負けでいいかな?」
彼女「(頷)」

私は勝ちました。

...しかしながら、
言葉は取り扱い次第で、
薬にもなれば毒にもなることを
我々は肝に銘じておかねばならない。
そう思いながら、ある記憶が蘇った。

その昔、とある2人の間に子供ができた。
女は学生。
男は働いていたもののまだ20歳を過ぎた頃で、
結婚に対する心構えも金銭的な準備もできていなかった。
学校を辞めてでも産みたいとする彼女に対し、
彼は見ているこちらが不憫になるほど思い悩んでいたが、
最後には意を決してこう切り出した。

「産んでもいいよ」

私達は彼の決断に拍手した。
これで2人は
新たな一歩を踏み出すものとばかり思っていたが、
その言葉を聞いた彼女は結婚を拒み、
1人で子供を産み育てることを決心した。
それは何故か。

「産んでください」

彼女はその言葉を待っていたのである。
「産んでもいい」などという
譲歩の意味を含んだ言葉が彼の口から出てきたことに、
先々への不安を抱いたのだと静かに言った。

ほんの些細な語尾の違いが
人の運命を左右してしまうほど言葉はデリケートなものである。
下ネタが飛び交う飲みの席ならいざ知らず、
ここは丸の内の昼間のオシャレカフェ。
外国人だとしても、
「みこすり半劇場」はさすがにどうかと思ったが、
周りの人が滅茶苦茶笑ってくれたので、
結果オーライ?