猫の話。メタファー

2023/06/12

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

高校時代の先輩の元旦那に
殺されかけた話は次回綴るので、
今日は猫の話をさせて欲しい。

自宅から最寄駅へ。
最短の道を進めば、所要時間はおよそ10分。
仕事か遊びか、いずれにせよ
心をフラットにさせるために
お気に入りの曲を聴きながら家を出て、
2曲聴けばちょうど駅に着くわけだが、
途中で出くわす2匹の猫が足を止めさせる。

キジトラと茶トラで、
あるお宅の塀に並んでいるのがいつものスタイル。
耳は無事だから飼い猫か?地域柄か?
育ちがよさそうに見える。
もしも、
生活に困ることがあればうちで飼ってもいいし、
動物を派遣する事務所を作るとしたら雇いたい。

「芸能界に興味はございませんか?」

しかし、こちらがどんなに下手に出ても、
私を視界に入れたら角膜が傷つくとでも思っているのか、
まったく相手にしてくれないのである。
こいつら、俺が住民全員が裸足で生活している
五島列島出身だと見抜いているのか?
中目黒猫が、お高く留まりやがって。

一瞬たりとも目を合わせてくれないから、
もしかしたら照れ屋なのかと思ってもみたが、
警戒心が強い猫はいても、
照れ屋の猫はそうそういない。

かれこれ5年以上、
その道を通れば2回に1回は出くわすのに、
こちらが視線を送っても完全シカト。
一度、明らかに見ていないからそっと近づいたら、
2歩手前のところで逃げられたことがある。

なんとかして正面から見たい、
こちらを見てほしい。

「やあ、キミたち、芸能界に興味はないかい?」

面と向かって伝えたいのである。
お互い目を見て想いを伝えれば、
なにかを感じ取ってくれるかもしれないし、
そこから信頼関係を築ける可能性だってあるから、
せめて、こちらは本気で歩め寄らなければならない。
たとえ、無視され続けても
いつか振り向いてくれると信じて。

そして、先日、それは現実となった。
いつもの通りを歩いて馴染みの顔を見る。
2匹ともなかなかやはり、イケてる顔してるよなぁ...って、

「こっち見とるやん!俺のほう見とるやん!」

思わずカメラを向けたが逃げもしない。
夏休みが近いからか、
それとも誕生日が近いのか、
猫たちの動機はなんだっていい。
心を開いてくれたことがうれしくて、
言ってみたかった言葉をかけながら近づいた。

「YOUたち、芸能界に興味ない?」

すると、隠れていたのがバレたように、
慌てて逃げ去った。

あぁ、そういえば私は、猫より犬派だった。

その日は、初めて駅に着くまでに3曲聴いた。
ジャニーズの曲だった気がする。