怪談2023①

2023/06/19

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

明後日6月21日は夏至。
もう誰が何と言おうと夏である。
夏といえば背筋がヒヤッとする怪談であるが、
今回は、私が実際に体験した恐ろしい話をお伝えしよう。

約10年前のその日、私は人生で最後の美容院に行った。
地方(静岡)の番組で私は前ノリしており、
次の日、東京から来るタレントとの打ち合わせ、
いわゆる「タレント打ち」があったので、
ボサボサの髪ではまずかろうと、
静岡で1番という噂の美容院で髪をカットしてもらい、
さらに、茶髪から黒髪に染めてもらった。

カットを終え外に出ると、朝の晴れ具合とは違い、
どんよりした雲が空と街を覆っていた。
ジメッとした湿気が身体に纏わりつく。

ロケ、大丈夫かな?などと思いながら
外気を避けるようにホテルを目指し、
汗を拭く間もなく休憩がてらベッドに飛び込んだ。
それから、どのくらい過ぎただろうか。
起きた瞬間に、なんとも言えない違和感を覚えた。
目を開けると、
部屋に飾ってある不思議な絵から視線を感じる。
それを強引に振り払い、
飲みにでも行くかと起き上がると、
枕に...赤黒い染み
(いや、「斑点」と表現すべきか?)が現れていた。

うわぁぁぁ!!
私は悲鳴を上げた。
気付かなかったが元々あったのか、それとも呪いの類か。
若しくは、ホテルの不手際...?
実は、宿泊したホテルというのが
一般的に想像できるホテルとは少し異なり、
マンションを改築したようなタイプで、
入館したときに不気味な感覚がしていたのだ。
枕を裏返しにしてはみたが、
再び奇妙な絵から視線を感じたので、
慌ててホテルを飛び出した。

...深夜に帰宅すると、部屋は静かだった。
枕を恐る恐る確認すると、
裏側には、やはりレイの染み。
その日は眠れぬ夜を予想したが、
お酒が入っていたから、案外あっさり眠れた。

うわぁぁぁ!!
朝起きて、私は再び悲鳴を上げた。
確実に白かったはずの枕の表面に
新たな染みがついているのだ。
これで確実なものとなった。
このホテルは呪われている。

とりあえず、
すぐに部屋を出ようとシャワーだけ浴びて...
うわぁぁぁ!!
なんと、身体を流れる水が赤黒く染まっているのである。
素っ裸でベッドまで戻り、
なんとか気持ちを落ち着けようと、
濡れた頭をタオルで拭いたら...
うわぁぁぁ!!
血のような染みが...

...あれっ?もしかして、髪の毛か?
たしかに、髪を染めると液が落ちていないことがある。
状況から考えて...間違いない。
しっかり洗い流さなかった美容師のバカヤロー。
汚しておいてホテルを疑ったおれのクソヤロー。
その後、フロントに連絡して事情を説明し、謝罪した。

不思議なことには
実は、簡単な答えがあるのかもしれない。
部屋を出るとき、
壁に飾ってあった絵はひときわ綺麗に見えた。

これが2023怪談の第1話。
『私が美容院に行かなくなった話』である。