修羅場@長崎②

2023/07/03

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

「先輩、知り合いの方、キツいですね」と
苦笑いしながら彼女を見ると、
「嘘でしょ?」と呟き、青ざめている。

その瞬間、
「あ、これマジなやつだ」と悟ったのだが、
二人の関係性が分からず、
何の行動も取れなかった。

直後、「こいつ誰だよ。説明しろよ!」と
手を引っ張られ、
店の出口の方へ無理やり連れていかれる先輩。
さすがに「これはマズい」と思い、
立ち上がろうとした私を
彼女は「大丈夫だから!待ってて!」と制し、
ジジイに引かれて店から出ていった。

大丈夫と言うのなら、
そうなのだろうと座り直した私だったが、
異様な雰囲気を感じ取り店内を見渡すと、
店員さん含めほぼ全員が私を見ている。
「何があった?」と説明を求めるような眼差しで。

「ああ、懐かしいなぁ、この感じ」

正直、このような状況は過去に何度も経験がある。
元カレやストーカー的な人物が突然現れ、
似たような行動を取られたこと数知れず。
この歳でまたやられるとは思わなかったし、
とにかく懐かしい感じがしたのだ。
私は、残ったグラスの酒を口にするほど冷静だったが、
周囲の人たちはそうではないらしい。
事故や犯罪の現場に群がる人のように
何があったのかを知りたがっているのは明らか。

言い訳のように
「ただの高校時代の後輩なんですけどね、僕」
などと大きめに独り言ちてみたが、
店内はざわざわしっぱなし。
助けを求めるように店員の女性を見ると...

「あの人、元旦那さんなんじゃないですか?」
「..........あ、そうかもーー!!」

元旦那が20歳上だという話を聞いたばかり。
盗み聞き店員が気付けたのに、
何故、私は気付けなかったのか。
そう考えると何か誤解があるのは間違いない。

微かな恥ずかしさを原動力に
「行った方がいいですかね?」と
20歳そこそこの店員の彼女に
相談のような疑問を投げかけると、
間髪入れずに「はい」との答え。
じゃ、行ってみるかと外へ出てみると、
思いの外揉めている。

「誰だよ、あの男!」
「やめて!」
おお、ザッツ修羅場だ。
通りの人々も何事かと足を止めている。

どうするべきか。
過去の経験から私は知っていた。
この場合、私が素性を明かして、
男性側に何も疚しいことがないことを
理解してもらうことが最短ルートだと。

「あの、興奮しているところすみませんが、
私は、OOさんの高校時代の陸上部の後輩で
荒木と申す者です。
すみません、挨拶遅れまして」

だが、これが間違いだった、ようなのだ...。
                                                             ③へ続く