修羅場@長崎③残された謎

2023/07/10

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

「あの、興奮しているところすみませんが、
私は、OOさんの高校時代の陸上部の後輩で
荒木と申す者です。
すみません、挨拶遅れまして」

ああ、そうだったんですね、を期待した私だったが、
このひと言で男はヒートアップ。
「うちの嫁に何の用だ!!」

私は、たまたま長崎に帰ってきたタイミングで、
久しぶりに先輩に連絡して、
空いていたら飲みにいこうと誘っただけで、
疚しいことはない、ただの後輩だと説明。

「後輩?嘘つけー!!
行き先も誰と会うかも言わないのは絶対に変だ!」
「嘘じゃないですよ」
「こうなるまで、必死に押さえつけて
店に入れないようにするなんて、おかしい!」

見ると、男の腕は先輩に掴まれており、
この時間で?と疑問になるくらい
広範囲が赤黒く変色していた。
いや、先輩、パワーありすぎだろ、と思ったが、
逆に言うと、
店内に戻ろうと必死で先輩の手を
振り解こうと暴れていたのだろうと推測できた。
そう考えると...

「あ、この男、間違いなくヤバい人だ」

下手に刺激したら、何をされるか分からない。
何なら最初に店内で突撃された時点で
ナイフでサクッといかれていても
おかしくなかったくらいの取り扱い注意人物だ。
先輩はそれを悟っていたのか、
ふたりの目の前に立つと
それまで以上に私に近付けまいと押さえていた。

これ以上、煽ってしまうと先輩に危害を与えかねない。
どうするべきか、迷っていると
先輩に今日のところは、そのまま帰るように促された。
確かにその方が良さそうだし、
これ以上、事が大きくなることは防げそうだ。
ということで、
帰ることにしたのだが、
お会計の際に再び多くのお客さんに注目され、
提供された半分以上の料理を食べずに
店を出ることになったのは不本意であった。
退店し、今にも私に掴みかかってきそうな男を横目に
先輩から平謝りされながら、
帰路へとついた私だったのだが...

...実は、心の中ではウッキウキ。
こんなネタを提供してくれてありがとう。
友人や仕事関係の人、
ひいては家族ですら確実に食いつくネタができた。
これが長崎で起きたプチ修羅場だ。

その後、
部屋でゆっくりしていたところに
男は警察に連行されたと連絡を頂き、
実は、元旦那には3年前から
接見禁止令が出ているのだと知らされたのだが...

「...?...??...???」

ここまで3週に亘って読んでいただいたが、
文章の中に腑に落ちない点があることに
お気づきだろうか?
だが、それは、私が知る必要のないことで、
深く考えることをせずにいるため、
ここでは、あえて書かずにおこうと思う。

ひとつ言えるのは、
20以上も離れた年の差カップルというのは、
上の方が下の方を対等ではなく、
経験値としては下にみている傾向にあるが、
男女の関係としては、宝物のように大切にしている
傾向が強いということ。
そして、相手と同じくらいの年の人間に対して、
年齢的な嫉妬心を抱いている場合が多いこと。
あくまで、これは世間の年の差カップルに対して
前々から考察していたことであるが、
今回は、それにピタリと当てはまっていたように思う。

皆様は、どうお感じだろうか?