或る罠

2023/08/07

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

とあるバラエティ番組でのこと。

視聴率が悪かった回の制作会議。
会議室の空気は重苦しい。
時間になり、
ギリギリで入室してくるチーフプロデューサー。
淀んだ雰囲気を察してか、
妙に明るいテンションで喋り始める。

P「この前さー、出会い系で知り合った子と
会ったんだけど...見事に喰らったわ、アレ。
ハニーフラッシュ」

一同「???」

P「いや、渋谷で待ち合わせて、
良い感じのイタ飯屋で飯食って、
今日はそのまま解散だと思ってたんだけど、
向こうが結構乗り気でさ。行ったわけよ、ホテル」

一同「...」

P「で、いざホテル入って、
シャワー浴びて出てきたら、なぜか男いるの、4人。
で、俺の女に何してくれてんだっつって。
取られたわ、10万。
本当にあるんだねー。ハニーフラッシュって」

一同「(...ああ)」
ある人「(堪)」

P「なー小林。ウケんだろ?
お前あるか?ハニーフラッシュ喰らったこと」

小林「いや、ないっすね」

一同「(そりゃ、ねーだろうな)」

P「だろ?アルワナー、俺くらいになると」

小林「そうなんですね(苦)」

一同「(...シーン)」

余計重苦しい雰囲気に包まれる室内。
しばらくして...
チーフプロデューサーが口を開く。

P「...なるほど、分かった。
俺、今日でこの番組、辞めます」

一同「(えっ!?)」

P「いや、トラップ!ハニー・トラップ!!
皆、気付いてただろ!なあ、小林!」

小林「...はい。...でも」

P「俺みたいな50過ぎのオヤジが、
出会い系とか、渋谷とか、イタ飯とか、
キツくなかったか、聞いてて?」

小林「....」

P「誰もツッコめないくらい、
俺は御山の大将になってたんだな。
この番組にとっての癌は、
他ならぬ自分だったことに気付いた。
前々から薄っすら感じてはいたんだが...。
流石にハートがチュクチュクしたわ。
これからは、伸び伸びやってくれ」

じゃあな、とPは去っていった。


まあ、全ては私の妄想なのだが、
自分がチーム内で腫物のように扱われていないか、
下の者に慕われているのか、
知りたかったら、
こんな罠を仕掛けてみるのもアリかも知れない
と思って、そこはかとなく綴った回でした。