ハードル高男

2023/09/18

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

昔は、ハードルの選手だった。
ベストは国体予選決勝...
って、そのハードルではない。

先日の話だ。

「マジ旨いっすから!
醤油のこってり系ラーメンなのに
チャーシューじゃなくて鴨肉がのってるんです!
その焼き加減が絶妙で」

と男が熱っぽく言った。
彼のシズル感溢れる言葉から想像したビジュアルに
私も期待値を上げる。

「前に来た時は定休日だったから凹みました。
今日は開いていて良かった!
荒木さん、マジ運が良いっすね!」

運の良さを褒められて、
悪い気はしない。

「このラーメン屋が最寄駅にあったら
俺、マジで毎日通いますよ。
フランチャイズを頼みたいぐらい
惚れ込んでるんですよ!」

テンション高めに捲し立てるのは、
とある制作会社のディレクター。
収録中の昼休憩で「食べさせたいラーメンがある」
というので、連れて行ってもらったのである。

彼は、若手のホープたちの中でも
良い編集をすると評判のやり手。
そんな彼が言うのだから、
ラーメンの味にも間違いはないだろう。

少し待ってラーメンが運ばれてくる。

ひとくち。
...ふたくち。

「ね?」

少し考えるフリをして、
......みくち。
.........よくち。

「いや、感想遅いなー!」

コント「なかなか感想を言わない人」を
即興で行ったあと、
首を傾げてみせた。
一緒に連れてこられたメンツの顔を見ても、
微妙な表情をしている。
ふらりと入ったラーメン屋さんで出てきたら
「おっ」と顔がほころぶところだが、
期待度マックスで入った私たちには
物足りないレベル。

明らかに期待値を上げ過ぎた
彼の作戦ミスである。

ダメ出しを喰らうと
ハードルをものすごく低く設定して
アプローチすれば良かったと嘆いていたが、
その方法には、欠点がひとつだけある。

それは、あの日、カレーが食べたかった私は、
絶対に付いていかなかったことである。