スタイリッシュな帰り方

2023/10/02

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

飲み会で先輩より早く帰るなんてありえない。

そんな古い時代の価値観なんて
馬鹿げていると思っている人間ではあるが、
10人ぐらいに減った後だと
「そろそろ帰ります」のひとことを
発しにくい雰囲気になるのは事実。

先輩A「荒木くん...そろそろ帰りますって言ってよ」
荒木「Aさんの方が年上なんだから、お願いしますよ」

先日、新橋のカラオケボックスで
不毛な牽制合戦が繰り広げられていた。
会議では先輩作家のボケにもタメ口で突っ込む私達が、
某局のプロデューサーを前に
「押すな押すな」のキャッチボール。

荒木「それならタバコを買いに行くフリで、
自然といなくなるパターンでどうでしょう?」
先輩A「...やってみよう」

私は病気明け。
Aさんは痛風。
お酒が進むペースが遅かったため、
完全に乗り遅れていたこともあった。
カラオケで皆が熱唱しているのに、
壊れたタンバリンで合いの手を入れることしかできない。

荒木「それじゃ...タバコ買ってきます!」
先輩A「俺もー」
先輩B「あれ?どこいくの?」
荒木「タバコ買いに」
先輩B「荒木くん吸わないよね?バックレようとしてない?」

Bさんは勘が良いのである。
どれだけ酔っぱらっていても、
なぜか急に的を射たことを言ったりする。
「荷物を置きっぱなしで帰ったりしないよー」と
Aさんが言って事なきを得たが、
より帰りにくくなったのも事実。
失敗。

そののち...
先輩A「別の場所で飲んでる人が合流するみたいだから、
その隙に帰ろう」
荒木「ところてん方式ですね」

「おつかれーーー」
「遅いよ!!」
「こなーーーーーゆきーぃ」

合流した先輩Dのデス声でタイミングを完全に逸した。
プロデューサーは完全に酔っぱらい、
エアギターまで炸裂している。

Aさんは「こんなに楽しい飲みは久しぶりだ」
「帰るのが惜しい」などと言っていたが、
一方で「荒木くん、今、帰るって言ってよ」と
尻をつついてきたりもしていた。
きっと、私もお酒がしっかり入っていたら、
帰ろうなんて思わない場面だったのだが、
病み上がりなので付いていけない。

「それじゃ、そろそろ帰るか」

プロデューサーの、その言葉が聞けたのは午前5時。
結局朝までコースでお開き。
次の日、普通に仕事でつらい一日を過ごした。

帰りたいのに帰れない。
皆さんは、そんなときどうしますか?