縁もタケノコ

2023/10/16

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

環七沿いに引っ越してきてから、
タクシー移動が増えたのだが、
先日も荷物が多かったため、
スマホアプリでタクシーを手配した。

荷物を入れさせて欲しい旨を伝えると、
親切な運転手さんは快くトランクを開けてくれた。
だが...
そこは、タケノコで埋まっていた。
大ぶりの透明なゴミ袋で2袋。
トランクの約半分がタケノコで埋まっていたと言えば、
その異常さが伝わるはず。
キャリーバッグを積み込む私と運転手さん。

「すみませんね。タケノコ邪魔でしょう?」

その言葉を期待していた。
いや、当然だと思っていた。
あれだけのタケノコを積んでいたら絶対に言う。

「仕事前に知人がタケノコをくれましてね。
この時期のタケノコって珍しいでしょ?
四方竹(しほうちく)ってこの時期にしか
採れないタケノコなんですよ」
なんて言葉が自然と出るはず。
しかし、運転手さん。
タケノコには一切触れてくれない。

無愛想な方では決してない。
目的地までのおおよその時間を聞けば、
「道が空いていたら10分ですよー」と
愛想良く答えてくれるし、
天気の話を振れば、
「最近は雨が多かったんですけど、
今日は綺麗に晴れましたね」と返してくれる。
付かず離れず繰り返される絶妙なトークは、
タクシードライバーとしてのキャリアを感じさせる。

目的地まであと5分。
そろそろ、あのタケノコについて触れて欲しい...。
大人力が高い人ならスルーもできるのだろうが、
あれだけのタケノコを前に触れないなんて
普通の人間にはできないだろう。

そして、
目的地まであと3分というところで、
私はついに言ってしまった。

「この前、千本に1本しか取れないっていう
真っ白なタケノコを食べたんですけどね...(中略)」

自分でも思う。
直球でタケノコという言葉を出したのは不用意だったと。
しかし、運転手さん、
トランクのタケノコには一切触れず。

「ああ、そうなんですね。私も食べてみたいなぁ」

もしかして、忘れているのだろうか?と思って
次の言葉を探していたら目的地に到着。

あのタケノコが竹になっていないか、
心配な今日この頃。

なにかとタケノコに縁があるなぁ、といったところで、
今回は、この辺でお暇します。