THE BLUE HEARTS

2023/10/30

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

私世代の男性にとって
ブルーハーツは避けては通れないバンドである。
同世代とカラオケに行けば、
誰かが『リンダリンダ』を入れるし、
曲が流れれば必ず盛り上がる。

この世代に、
これだけ愛されるバンドが他にあるだろうか。
そういえば、久しくカラオケに行っていないなぁ
などと思っていたら、
とある番組で、
甲本ヒロト氏と同じ中学に通っていたという
作家に出会った。

彼が在校していた当時も
甲本氏は、岡山に帰ってきたときなどに
ちょくちょく学校に顔を出していたという。
保健室には可愛くハートマークが書かれた
サインが飾られていて、
甲本氏と同じく保健室っ子だった彼は、
そのサインを見てギターを握ったらしい。

そんなある日、
「これだけヒロトにお世話になっているのに、
挨拶に行かないのはおかしい」という話になったという。
中学生ってのはバカだから、
突拍子もないことを考えつくものだ、とは本人談。

そして、東京にいるヒロトに挨拶に行くには
お金も時間もないから、
まずは両親に挨拶に行こう、
ということになったのだという。

当時、甲本氏のご両親は
「甲本クリーニング」というクリーニング屋さんを
彼の中学の近くで営んでいて、
簡単に会うことはできたのだが、
男子中学生が自分でクリーニング屋に
行くことなどなかったため、
誰も両親に会ったことはなかった。

「制服をクリーニングしてもらったら話が弾むよな?」
「ジャージの方がよくねぇか?」

なんて会話をした後、
自転車で甲本クリーニングを訪れる男子中学生4人。

「お前が行けよ」
「お前が先に入れ」

なんてつつきあった後、
扉を開くと、
中から現れたのは...
金髪パンチパーマのおばさんだった。
(甲本母)

緊張していた上に、
あまりのインパクトに驚いた彼らは全員無言。
ヒロトについての話題など
触れる猛者はいなかったという。

この話を聞いた後、
私は言った...

「ロックっすね」

「はい」と彼は遠い目をしていた。