各駅停車ののんびりした揺れが眠気を誘う。
混みあった車内で大口を開けるのははばかられるため、必死であくびを噛み殺していたら、
目の前に腰掛けていた女性には、その様子が突如として持病がうずきだしたようにでも見えたのか、
「お座りになりますか」と声を掛けてきた。
「お座りになりますか」は早とちりではない。気遣いだ。
ご祝儀を頂戴したらお祝い返しを用意するように、お気遣い頂いたらお返しをせねばならない。
席を立った女性をそっと抱き寄せ、額に軽くキス。
そのまま背中に手を伸ばし下着のホックを外そうものなら、
まず間違いなく臭い飯を食うことになるため、どうするべきか頭をフル回転させて考えた。
出てきた言葉は「あ、大丈夫です。次で降りますので」だった。
こうして次の駅で降りることとなった私。
目的地まではまだ10駅以上もあった。


荒木建策