大都会でいちご狩り

2024/04/22

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

前回のコラムで
「いちごオレ」と綴った途端に
無性にいちごが食べたくなったのだが、
その瞬間に思い出したのは、
その昔、腎臓を悪くして
透析を受けていた祖父の味覚が
急に変化して、
それまでほとんど口にしなかった
いちごを好むようになったことだった。

人体の不思議を思い出したところで、
とりあえずコンビニに駆け込んだが、
残念ながら置いておらず、
アイスで我慢したが、なにか違う。

私の身体が欲しているのは、
本物のいちごなのだ。
ということで、
ネット検索してみると、
なんと世田谷区内に
いちご狩りができる農園が。
これは僥倖と
取材にかこつけて
仕事仲間を招集することにした。

かくして、
世田谷のいちご農園に
足を踏み入れたわけだが、
入り口をくぐった途端、
出迎えてくれたのは
素早い動きを見せるトカゲと、
受粉のために
放し飼いされているミツバチ。

それに続いて、
元サッカー・ナイジェリア代表の
オコチャみたいな店主が現れ、
「へへ、いらっしゃい。
本当は制限時間30分だけど、
気にしなくていいから」と言う。
もうシーズンは終わりで、
残しても仕方ないとのこと。

たしかに、
いちご狩りをするには、
実りが寂しい。
もう、狩り尽くされたのだなと
思いながらも、
ほどよく成長した
数少ないいちごを見つけてパクッ。
それでもかなり熟しているのか、
手渡されたミルクをつけなくても
十分に甘く、
選択を間違わなければ
それなりのいちごにありつけた。

しかし、
いちごなんて
大量に食べられるものではない。
制限時間を余して退散することに。

帰り際、
頭上にハチを二匹従えた
オコチャがお土産にと
いちごの袋詰めを、
ハウス内には
ひとつとして見られなかった
大きくておいしそうな
いちごの袋詰めをくれた。

狩り尽くしていたのはあんたか!
という言葉をグッと飲み込み、
お礼を言って帰路に着いた。

お値段3000円也。

いちごは、
それなりに良いものを
スーパーで買うのが一番。