ゴールデン感を求めて

2024/04/29

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

GWは帰省もせず、
予定は友人と飲みに行くことのみ。
今年もゴールデン感が全くない
GWを過ごしてしまうのか...

否!
こんなハルウララの陽気の中、
うちに引き籠もっていてはいけない。
何か記憶に残ることをしよう。
ハルウララといえば...
ということで、久しぶりに
競馬場に足を運んでみた。

電車を乗り継いで、
競馬正門前駅まで。
まあ、遠い。
そもそも私は競馬に興味がないので、
着いた途端何しに来たのだろうと
自問自答することになったが、
開放感のある競馬場は、
居るだけで清々しい気分になる。
1、2レースだけ適当にかけて
気が済んだら帰るか、と
パドックに足を運んでみた。

そこには...
「ワンワン!ワンワン!」
周りのおっさん連中が
真剣に馬を見定める中、
大きな声で「ワンワン!」と
吠え続ける少女がいた。

少しばかりの怖さを感じつつ、
何を吠えているのだろうと観察していると
ゼッケン2番の馬が
目の前を通り過ぎたときにのみ
吠えていることに気付いた。

これは何かのお告げだろうか。
その気持ちをさらに確信させたのが
隣のおっさんの助言である。
「お嬢ちゃん馬を見る目があるねぇ。
あの馬は外を回り前にいる馬を
追い越そうとしながら歩いてるだろ。
ああいった馬は気が乗っている証拠で
レースになったら走るんだよなぁ」

買おう!
2番の単勝に千円!
少女の直感と昼からワンカップを片手に持つ
おっさんの意見に身を委ねるのは危険だが、
目に見えない何かを感じる。

事前に仕入れた情報によると
購入した馬は追い込み馬らしい。
つまり道中は脚をタメて、
府中の長い直線で勝負をかけるのだ。
そして、もう一つ仕入れた情報は
前走の成績である。
最後方から進んだ2番の彼は、
結局一頭の馬もかわせぬまま
フィニッシュしたらしい。
大丈夫かなぁ...。
そんな心配をよそに発走を告げる
ファンファーレが鳴り響く。
さぁ、いよいよスタートである。

スタートは悪くないし、
折り合っているようにも見える。
ただ直線に入ったと同時に彼を見失った。
馬が芝を蹴りあげる音に圧倒され
目で追うことができないのである。
彼を発見できたのはゴールを過ぎてから。
その位置と人馬が
「すいませ~ん」みたいな
表情をしていたことから察するに
最下位争いを繰り広げていたことは必至。
つまり、馬券は大ハズレで、
おっさんと少女もハズレというわけである。

結局、少女があの馬に何を感じたかは不明。
一ヶ月後には、毎年、
誕生日に近い日取りで開催されるから
運試しの意味で買っている
日本ダービーが開催される。

もしも、くだんの少女が再び現れ、
18頭の内、17頭の馬に対し
「ワンワン」と叫んでくれたら
残りの一頭に全財産を突っ込もうと思う。