健康

2024/05/20

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

680円のお会計に千円札を手渡せば、
お釣りは320円。
しかし、返ってきた小銭が
220円しかなかったとしても、
今の私は「バカ野郎」とは怒鳴れない。
「100円足りないよ」と言えない。

お釣りが足りないことに
何か理由があるような気がして、
言葉を飲み込んでしまう
繊細な私であるが、
原稿の締め切りと、
病院や注射から逃げることに関しては
これまで大胆な行動を取ってきた。

小学生時分、インフルエンザの
予防接種となると
トイレに行くと告げて列から離れ、
個室でトイレットペーパーを調達し、
それを丸めたものを
腕に当てながら
教室に戻るといったことを繰り返していた。

「痛かったら手を挙げてください」、
ドリルを手にした歯医者にそう言われ、
もう無理と右手を勢いよく挙げたとき、
まだドリルは歯に触れておらず、
歯医者を呆れさせたものだった。

今回は検査結果を聞きにいくだけ。
痛いことはないと知りつつも、
もう20年近く
オーバーホールしていないだけに、
いけない何かが
わかってしまうような気がして、
身体的にではなく精神的に
痛い目に遭うような気がして、
かれこれ2週間ほど逃げていたが、
妙な疑惑を残したままでは
おちおちXXXXもできないからと、
意を決して病院に飛び込んだ。

「どうしてすぐ来なかったの」

低いトーンの第一声にビクッとした。
もしや早急な治療を要する
病気でも見つかったのかと、
身構えながら次の言葉を待った。

「何にもないね。
なーんにも出てこなかったよ。
尿検査、血液検査ともに正常。
梅毒もマイナス。
湿疹の原因は精神的なものかもね。
ストレスとか。
ただ、悪玉コレステロールの
値が若干高いから、
脂っこいものを摂り過ぎないようにね」

...セーフ。
梅毒もマイナスって、
性病を疑ってやがったのかと
一瞬カチンときたが、
今はそれも笑って許せる。

私、どうやら健康なようです。