風俗に行っていない話

2024/06/17

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

背中にポツッとできた湿疹のような
蕁麻疹のようなものが、
ふと気付けばポツポツぐらいに
広がっていて、
すわ一大事と近所の病院に駆け込んだ。

浅学非才の身である私の、
唯一にして最大の武器である健康を失ったら、
多分、職も失うだろうし、
友達もいなくなるだろうし、
家族も...
いや、失うモノ多すぎるやろ!!!

という謎のテンションで、
病院に行ってみた。

医者の前に座るや否や、
シャツを脱ぎ捨て
患部を見せた後、
「ハイ、着ていいよ」の次のひと言を
固唾を呑んで待っていると、
問診票に視線を落としたまま
医師は言った。

「最近、行った?」

はて、どこのことだろう。
ディズニーは昨年の11月以来、
行っていないなぁ、などと
頭の中を隅々まで探してみたが、
どうしても主語が見当たらずに
視線を泳がす私を見て、
医師はニヤリと笑った。

「最近、風俗行った?」

...ここが居酒屋ならば、
実際に行ってようがいまいが
話の腰を折らぬために
乗っかるところだが、
あいにくここは病院だ。
努めて冷静に否定する私の言うことなど、
この人はまるで聞いてない。

「またまたぁ、どこかで遊んできたんでしょ?」

まるで私が嘘をついているかのような
口ぶりである。
冗談じゃない。
本当に行ってない。
というか、生まれてこの方、
風俗というものに行ったことがない。

先生、勘弁してくださいよと繰り返し否定しても、
最後まで性病を疑われたその理由は
おそらく浮ついているように
見えたからではなかろうか。

雨の日も風の日も患者と向き合い、
自ずと洞察力が磨かれているであろう
医師の目には、
私が風俗で遊んで楽しい時間とともに
病気をもらってくる
ゴキゲンな人に映ったのだろう。

まあ、あながち間違ってはいない。
催促が来ないのをいいことに、
頼まれた企画書もすっ飛ばした私は今、
確かに浮ついているが、
ガムを噛みつつ行きつけの
スナックの話を始めた先生、
アンタも相当なもの。

人の振り見て我が振り直せ、
緩んだ気を引き締めつつ、
明日、検査結果を聞いてきます。
患部は多分、もう治っている。