アノ・ヨーコ

2024/08/26

荒木建策(放送作家/脚本家)

先週の火曜日のことだ。
15時を少し回ったその時、
私は最寄りのローソンにいた。
なんやかんや細かい買い物をして、
支払いをしようとスマホを取り出すと、
画面上に090から始まる番号から
不在着信アリとの通知が来ていた。

はて...?

このご時世、
無料通話アプリを経由せずに
知人から電話がかかってくることは稀だし、
特に重要度は高くないだろうと、
こちらからかけ直す必要はないだろうと、
悠々と買い物を済ませて
家に向かっていると、
LINEメッセージが届いた。

「電話したの自分です。
OOの打ち合わせ、始まってます」

私は、ある大事な打ち合わせの日程を
翌日だと認識していたのである。
猛暑日の中、ダッシュで帰宅。
30分遅れでの参加になってしまった。

この時に、アプリを介さない着信にも
応答しようと考え直したはずだったのだが...。

4日後、
またしても、090から始まる番号から
着信があった。
瞬時に、
入っている打ち合わせの日程を頭の中で確認。
予定が入っていないことを確信し、
こういうのは、大体不動産の勧誘か
LINEも交換していないくらいの関係性の人からの
面倒くさい仕事の依頼だろうと放置した。
すると、
数分後に留守電が入っている旨の通知が。

恐る恐る聞いてみると...
「ヨーコですけど」

ヨーコー!!
マジで!?
あのヨーコ!?
声的に...間違いない。

そう、このコラムの古参読者の方はご存じ、
あのヨーコからの7年振りくらいの
伝言だったのである。
(2017/04/24「留守電」)

ヨーコは続ける。
「もういいです。
アレさえ持ってきてくれればそれでいいです。
だから、一度電話ください」

留守電に入っていたのは、
それだけだった。
アレとは一体何なのか。
ナイフかスパナか缶切りか、
フォークかソースか消しゴムか、
それとも、こち亀の201巻か。
缶切り以外はどれも家にあるが、
なぜ、7年も経った今、
再び間違い電話をかけてきたのか。
結局、あなたは何者なのか。

絶対に知らない人だし、
7年前に綴った直後に
着信がこなくなったから忘れていたけれど、
気になって仕方がない。
アレって何?
留守電では、それの固有名詞を言うのを
躊躇ってしまうほどのモノなのか?
恐すぎるし怖すぎる。

もっと普通のおばさんだと思ってたぞ、ヨーコ!
今度かけてきたら取るからなヨーコ!

...キモカワとか、
そんな言葉があるが、
今回のことを表現するとしたら、
ナツコワ(懐恐)
実は400回目だった今回に、
相応しいコラムだったような気もする。