K

2024/09/09

荒木建策(放送作家/脚本家)

小学生のある夏、
我が家ではカブトムシを飼っていた。
どういう経緯でそうなったのか、
どこからか買ったものなのか、
もらったものなのか、
今となっては思い出すことはできない。

しかし、ほとんどの小学生が憧れる
カブトムシがうちに来たものだから、
テンションはMAX。

スイカとかリンゴとか、
カブトムシ用の餌などを与えて、
しばらくは世話をしたように思うのだが、
その後、放置する時間が増え、
ついには、
家族旅行に行っている間に死んでいた。

虫って、こんなに短い間に死んでしまうのかと
命の脆さに気付かされたのであるが、
カブトムシはガキの教育のために
存在しているのではなく、
私は当時のことを後悔している。

話は現在に戻り...
ついこの間、
友人と集まって飲んだときに、
その話をしたら、ある友人家族は今、
縁あってノコギリクワガタを飼っているらしい。

そして、ある日の夜、
飼育ケースの中にいるのを見て、
彼の娘がこう言った。

「お友達がいなくて可哀想。
校舎の裏にお友達がいっぱいいるのを見つけたから、
お嫁さんになる子を連れて帰ってくるね」

...はて?
校舎の裏にクワガタがいっぱいいるって...。
まぁ、確かに校庭には木が植わっているから
いなくはないだろう。
男子生徒たちの奪い合いになりそうだけどな、
などと思ったそうだが、
娘があまりにも力説するので、
虫かごを持たせたらしい。

その夕方、仕事を終えた彼の妻と
一緒に娘を迎えに行くと、
満面の笑みを浮かべた娘が
虫かごを手に走ってくる。

「パパ、ママ、見て!
クワちゃんのお嫁さんをたくさん捕まえたよ」

差し出された虫かごを見た彼らは、
思わず悲鳴を上げた。
「きゃぁぁぁああああ!」

彼「こ、これは、ゴ...カナブン!?」

それから、
傍らで、先生が申し訳なさそうな顔をしていて、
娘があまりにも喜んでいるので
「それは違う」とは言えなかったと
耳打ちしてくれたそう。

7匹ものカナブンが狭い虫かごの中で、
わさわさと押し合いひしめく様を想像すると、
彼らでなくとも悲鳴を上げそうになる。

そのときの写真があるからと、
見せてもらうと同席した女性たちは
やはり絶叫。

そうそう旨い話はあるもんじゃない。

あまりにも気持ち悪かったので、
娘さんには内緒で、
夜中にこっそりと逃したらしい。

私もなかなかというか最上級の虫嫌い。
Gに比べたら
圧倒的にカナブンの方がいいが、
7匹もいたら地獄でしかなく、
実物を見てしまった手前、
一気に、嫌いな虫ランキングにランクイン。

これからは「K」と呼ぶことにしよう。