カバチ・タレ2

2024/10/28

荒木建策(放送作家/脚本家)

一度目は、10年前だ。
まだこのコラムを始める、はるか前の事。

焼き鳥丼だった。
完全に、おいしく、ペロリとたいらげた後の事。
机の上から、アレが見つかったのだ。

「焼き鳥丼のタレ」

美味しかった。
焼き鳥丼は、確かに美味しかったのだ。
ソレを見つけるまでは。

見つけたからといって、
別に何がどうなったわけではない。
ただ、がっかりした。
自分の愚かさに。
「このタレを付けたら、
あの美味しかった焼き鳥丼が、
一体どこまで美味しくなったのか」と。

二度目は、7年ほど前。
ジンギスカン弁当だった。
北海道フェア的な催事で買ったもの。
ジンギスカンなんて普段食べないし、
初ジンギスカンだったから
鮮明に覚えている。

美味しかった。
初ジンギスカンは、
思っていた以上に美味しかった。
ソレを見つけるまでは。

「ジンギスカンのタレ」

見つけたからといって、
ジンギスカンが不味くなったわけではない。
ただ、唖然とした。
自分の愚かさに。

「このタレをかけていたら、
あの美味しかったジンギスカン弁当が
一体どれほどまでに美味しくなったのか」

問題は、そのどちらもが、
タレを付けずとも美味しいところにある。
だからこそ、
タレを付け忘れている事に気づきもせず、
最後まで食べ切ってしまうわけだし、
これが更においしくなったのか、と
精神的ダメージを受けるのだ。

それからというもの、
私は徹底的にタレに注意を払った。
払いに払い続けた。

「タレ、よーし!」

教習所でも出した事のないような大きな声で、
毎度毎度、指差し確認をし、
かけ忘れないことを人生の目標とした。

ところが、先日...。
その日は、
明太子クリームパスタ。
明太子クリームパスタにとってのタレは、
もちろんクリーム。

「クリーム、よーし!」

附属のクリームを中から取り出し、
パスタに絡める。
器の形状の都合上、
上からかけただけでは上手く絡まない。
私は、念入りにクリームをパスタと混ぜ合わせた。

それがいけなかった。
敗因を分析するならば、
これはクリームに気を取られ過ぎていた為に
起こってしまった悲劇である。

食べ終わり、
私の目の前には、
ひとつの小袋があった。

「きざみのり」

海苔、お前もか!!