マンボウについて

2024/12/09

荒木建策(放送作家/脚本家)

先週、熱海に行ってきた。
昭和の時代に栄えた観光地だし、
いまや先人の遺物的な土地かと思っていたが、
平日なのに駅前商店街は人でごった返し、
活気のあるザ・観光地の様相。

ビーチは、
ヤシの木やソテツ系の南国植物で彩られ、
ハワイを思わせる雰囲気。
いい意味で期待を裏切られ、
熱海での2日間は、
まごうことなきバカンスとなった。

近海で獲れた海の幸も
文句の付け所なく美味であったのだが、
熱海ならではの珍しい食の体験があった。

2日目の昼食でのこと。
私のオーダーは「刺身5点盛定食」。
運んできた店員が、
盛られた魚の種類を教えてくれた。

店員「左から、マグロ、ブリ、タチウオ、ニベ...
マンボウです」

荒木「マンボウ!?」

店員「マンボウです」

荒木「マンボウ...」

恥ずかしい話、
マンボウの刺身なんてものが、
存在することすら知らず、
自分が思い浮かべているマンボウとは
違う魚なのではないかとさえ思ったが、
調べてみると熱海や伊東あたりでは、
普通に食べられているそう。

マンボウといえば、
まるで魚の半分だけのような形、
巨体にまんまるな目とおちょぼ口。
そして、水族館では、
なぜか保護シートが張られた
何もない水槽で厳重に飼育されている。
実は、マンボウは、
死にやすい生きものとして有名で、
ネット上では、
マンボウの「デリケートすぎる死因」が
都市伝説化していたりする。

例えば...

・まっすぐしか泳げないため岩にぶつかり死亡
・潜ったら水が冷たすぎて死亡
・朝日が強すぎて死亡
・寝ていたら陸に打ち上げられて死亡
・ジャンプしたら水面に当たり死亡
・食べた魚の骨が喉に詰まって死亡
・水中の泡が目に入ったストレスで死亡
・海水の塩分が肌に染みたショックで死亡
・近くに居た仲間が死亡したショックで死亡

などなど、このような「マンボウ最弱伝説」が
まことしやかに囁かれているのである。

実際、マンボウはここまで弱くはないようだが、
胃腸の弱さは生物界でも群を抜いていて、
消化不良を起こしやすく、
それが原因で死亡することは珍しくないのだとか。

さらにマンボウの泳ぎが下手なのも事実。
曲がれずに壁などにぶつかるのは日常茶飯事。
それだから飼育も大変で、
水族館はマンボウをどれだけ長く飼えたか
その記録を競い合っているのだそう。

ちなみに日本の飼育最長記録は、
鴨川シーワールドの
8年2ヶ月(2993日)。
マンボウの寿命は、
平均でオス85年、メス105年というから
いかに飼育が難しいかが分かるだろう。

そんな希少種のマンボウが、
不意に提供されたわけだが、
当時はマンボウに関する知識がなく
有難みもなく、
味気のない魚だという感想だった。
今食べたら、少し違うのかも知れない。