愚者トシヒコ
2025/03/03
荒木建策(放送作家/脚本家)
離島の育ちゆえ、
近所には最新機種がところ狭しと並んだ
ゲームセンターなどなく、
駄菓子屋に併設されたただの小屋、
そこに型落ちのゲーム機が数台置いてある...。
それが僕らの「ゲーセン」であった。
「おばさん、電源入れてー」
駄菓子屋のおばさんにそう告げて始まる
くにおくんの『熱血高校ドッヂボール部』は、
まさに幼いころの青春。
その後、
家庭にファミコンが普及していくと、
我々を待っていたのは、
くにおくんシリーズをはじめ、
マリオ、ドラクエ、FFなど、
ファミコンの歴史を彩る名作ばかり。
そんな流れの中で
型落ちゲームしかない
駄菓子屋のゲーム小屋からは
子どもたちの客足が自然と遠のいた。
我々のゲーセン時代が終わったのである。
こうして時は流れ...1990年のこと。
「ゲーセンにネオジオが入ったぞ!」
突如として件のゲーム小屋に「ネオジオ」が
搭載されたゲーム筐体が導入された。
それを聞きつけてきたのは、
ひとつ年上の友達であったトシヒコくん。
トシヒコくんの家にはファミコンがなく、
我々が家庭でゲームを楽しむ中、
少ない小遣いでゲーム小屋に通っていた。
だから、情報も早かった。
ネオジオといえば、
ソフト1本3万円はくだらない、
子どもはおろか、
庶民の手には届かないセレブ向けマシン。
そんな夢の筐体が導入されたとあって、
ゲーム小屋は一気に話題の的に。
我々がゲーム小屋に再び興味を示したのが
嬉しかったらしく、トシヒコくんは
すぐに一緒に出向くことを提案した。
そして、次の日曜日。
我々は1000円札を、
トシヒコくんは100円玉を何個か握りしめて、
ゲーセンへと向かった。
ゲーセンに着いてみると、
そこは子どもたちでごった返し、
順番待ちの列ができていた。
さらに、その盛況に調子付いた
駄菓子屋のババアは、
カップ麺とお湯のセットで200円(当時)、
という阿漕な商売を始めていた。
ゲーム狂いの子どもの購買欲は凄まじく、
それが飛ぶように売れていて、
とくに人気だったのが「日清UFO」。
誰かが注文しようものなら、
小屋中がソースの良い匂いで満たされ、
俺も俺もの焼きそばの連鎖を呼ぶ。
トシヒコくんは、それに巻き込まれた。
ここまで読んでくれた方は、
薄っすらお気付きだろうが、
トシヒコくんちはシンプルにド貧乏。
そんなトシヒコくんが...
そんなトシヒコくんだったから、
誘惑に勝つことはできずに注文した。
そう、生まれて初めて
UFO(未知)との遭遇を果たしたのだ。
ところが...
初めての湯切りで、
トシヒコくんはミスをした。
お湯の行き先は小屋の脇にあった排水溝。
「あっ」というトシヒコくんの声と同時に
お湯と、全ての麺がそこへ吸い込まれた。
私は、そのときの彼の顔が今でも忘れられない。
そんなお話。
離島の育ちゆえ、
近所には最新機種がところ狭しと並んだ
ゲームセンターなどなく、
駄菓子屋に併設されたただの小屋、
そこに型落ちのゲーム機が数台置いてある...。
それが僕らの「ゲーセン」であった。
「おばさん、電源入れてー」
駄菓子屋のおばさんにそう告げて始まる
くにおくんの『熱血高校ドッヂボール部』は、
まさに幼いころの青春。
その後、
家庭にファミコンが普及していくと、
我々を待っていたのは、
くにおくんシリーズをはじめ、
マリオ、ドラクエ、FFなど、
ファミコンの歴史を彩る名作ばかり。
そんな流れの中で
型落ちゲームしかない
駄菓子屋のゲーム小屋からは
子どもたちの客足が自然と遠のいた。
我々のゲーセン時代が終わったのである。
こうして時は流れ...1990年のこと。
「ゲーセンにネオジオが入ったぞ!」
突如として件のゲーム小屋に「ネオジオ」が
搭載されたゲーム筐体が導入された。
それを聞きつけてきたのは、
ひとつ年上の友達であったトシヒコくん。
トシヒコくんの家にはファミコンがなく、
我々が家庭でゲームを楽しむ中、
少ない小遣いでゲーム小屋に通っていた。
だから、情報も早かった。
ネオジオといえば、
ソフト1本3万円はくだらない、
子どもはおろか、
庶民の手には届かないセレブ向けマシン。
そんな夢の筐体が導入されたとあって、
ゲーム小屋は一気に話題の的に。
我々がゲーム小屋に再び興味を示したのが
嬉しかったらしく、トシヒコくんは
すぐに一緒に出向くことを提案した。
そして、次の日曜日。
我々は1000円札を、
トシヒコくんは100円玉を何個か握りしめて、
ゲーセンへと向かった。
ゲーセンに着いてみると、
そこは子どもたちでごった返し、
順番待ちの列ができていた。
さらに、その盛況に調子付いた
駄菓子屋のババアは、
カップ麺とお湯のセットで200円(当時)、
という阿漕な商売を始めていた。
ゲーム狂いの子どもの購買欲は凄まじく、
それが飛ぶように売れていて、
とくに人気だったのが「日清UFO」。
誰かが注文しようものなら、
小屋中がソースの良い匂いで満たされ、
俺も俺もの焼きそばの連鎖を呼ぶ。
トシヒコくんは、それに巻き込まれた。
ここまで読んでくれた方は、
薄っすらお気付きだろうが、
トシヒコくんちはシンプルにド貧乏。
そんなトシヒコくんが...
そんなトシヒコくんだったから、
誘惑に勝つことはできずに注文した。
そう、生まれて初めて
UFO(未知)との遭遇を果たしたのだ。
ところが...
初めての湯切りで、
トシヒコくんはミスをした。
お湯の行き先は小屋の脇にあった排水溝。
「あっ」というトシヒコくんの声と同時に
お湯と、全ての麺がそこへ吸い込まれた。
私は、そのときの彼の顔が今でも忘れられない。
そんなお話。