ジャムお兄さん
2025/04/21
荒木建策(放送作家/脚本家)
芸能人の誰々に似ているという話が嫌いだ。
それがどうしたと。
世の中の90%は、
それがどうした話だが、
誰々に似ているといった話題は、
よほど自分に自信がないかぎり、
強烈なパンチラインを食らうことがある。
イケメンはたしかにもてはやされる。
そうでない場合は気を遣われるか、
場の空気を読みながら
オチにつかわれるかの二択だ。
かつて、自分はキリンに似ていると
言われたことがある。
芸能人縛りではなかったとはいえ、
動物はねーだろ。
犬っぽい、猫っぽいなら逃げとしてわかる。
キリンってなんだよ、とその時は思った。
キリン事変以降、
それを超えるものはないと、
誰々に似ている話をしても、
特に興味もなく、右から左へ、
時には左から右へ受け流していたが、
先日、歴史を塗り替える出来事があった。
自宅で小型犬を飼っていそうな
女性ADがヒザをバシバシ叩きながら、
「荒木さん、若い頃のジャムおじさんに似てますね」
と言ってきたのである。
10文字そこらのセンテンスで、
ここまで悪意を含んでいることはそうそうない。
若い頃ってなんだよ。
若い頃のジャムおじさんなら、
それはもう、ジャムお兄さんだろ!!
こいつはただのバカだ。
そういう結論に至ったのだが、
後日、運命を予感させる出来事が起きた。
その日は朝からイヤホンの調子が悪く、
音が途切れるような状態になっていたので、
仕事帰りに大型の家電量販店に
イヤホンを買いに行った。
そこは驚くほどの品揃えで、
安くて1000円、
高いものでは40000円のイヤホンが
ズラリと並んでいた。
移動中に音楽を聴いたり、
動画を見るぐらいだから、
それに適した3000~5000円ぐらいのやつで
オススメはないかと、
近くにいた女性店員さんに尋ねたら、
詳しい者を呼んでくると伝えられた。
なるほど、これだけ種類があれば、
イヤホンの専門知識を持った人もいるのだなと
感心して待っていたら、
やや離れた位置から
お客さまこちらですと声がかかった。
そうか、すでにスタンバイしていて、
そこにオススメのイヤホンがあるんだなと近づくと、
その店員さんはこう言った。
「お客さま、少し前までは品薄でしたが、
最近は流通するようになって、
お手ごろなやつもあるんですよ。
私がオススメしたいのはこちらです」
そう言って推されたのが、
ホームベーカリーである。
「俺が欲しいのはイヤホンじゃい!」
どこでどう伝わったら、
私がホームベーカリーを欲している
おじさんになるのだろうか。
バカADもバカ店員も、
もしかしたら未来人で、
俺の天職がパン職人であることを暗示していて、
早く転職するよう勧めているのか。
俺の未来はリアルジャムおじさんなのか。
こんなことで悩まされるぐらいなら、
早めに自分の顔を取り替えたほうが
いいのかも知れない。
芸能人の誰々に似ているという話が嫌いだ。
それがどうしたと。
世の中の90%は、
それがどうした話だが、
誰々に似ているといった話題は、
よほど自分に自信がないかぎり、
強烈なパンチラインを食らうことがある。
イケメンはたしかにもてはやされる。
そうでない場合は気を遣われるか、
場の空気を読みながら
オチにつかわれるかの二択だ。
かつて、自分はキリンに似ていると
言われたことがある。
芸能人縛りではなかったとはいえ、
動物はねーだろ。
犬っぽい、猫っぽいなら逃げとしてわかる。
キリンってなんだよ、とその時は思った。
キリン事変以降、
それを超えるものはないと、
誰々に似ている話をしても、
特に興味もなく、右から左へ、
時には左から右へ受け流していたが、
先日、歴史を塗り替える出来事があった。
自宅で小型犬を飼っていそうな
女性ADがヒザをバシバシ叩きながら、
「荒木さん、若い頃のジャムおじさんに似てますね」
と言ってきたのである。
10文字そこらのセンテンスで、
ここまで悪意を含んでいることはそうそうない。
若い頃ってなんだよ。
若い頃のジャムおじさんなら、
それはもう、ジャムお兄さんだろ!!
こいつはただのバカだ。
そういう結論に至ったのだが、
後日、運命を予感させる出来事が起きた。
その日は朝からイヤホンの調子が悪く、
音が途切れるような状態になっていたので、
仕事帰りに大型の家電量販店に
イヤホンを買いに行った。
そこは驚くほどの品揃えで、
安くて1000円、
高いものでは40000円のイヤホンが
ズラリと並んでいた。
移動中に音楽を聴いたり、
動画を見るぐらいだから、
それに適した3000~5000円ぐらいのやつで
オススメはないかと、
近くにいた女性店員さんに尋ねたら、
詳しい者を呼んでくると伝えられた。
なるほど、これだけ種類があれば、
イヤホンの専門知識を持った人もいるのだなと
感心して待っていたら、
やや離れた位置から
お客さまこちらですと声がかかった。
そうか、すでにスタンバイしていて、
そこにオススメのイヤホンがあるんだなと近づくと、
その店員さんはこう言った。
「お客さま、少し前までは品薄でしたが、
最近は流通するようになって、
お手ごろなやつもあるんですよ。
私がオススメしたいのはこちらです」
そう言って推されたのが、
ホームベーカリーである。
「俺が欲しいのはイヤホンじゃい!」
どこでどう伝わったら、
私がホームベーカリーを欲している
おじさんになるのだろうか。
バカADもバカ店員も、
もしかしたら未来人で、
俺の天職がパン職人であることを暗示していて、
早く転職するよう勧めているのか。
俺の未来はリアルジャムおじさんなのか。
こんなことで悩まされるぐらいなら、
早めに自分の顔を取り替えたほうが
いいのかも知れない。