メモからのエモ

2025/06/23

荒木建策(放送作家/脚本家)

引き出しに仕舞っているメモ帳が増えていく。
放送作家になってからというもの
その時に思い付いたネタや
日常で起こった面白いことを
書留めるために使ってきた
思い出の詰まったメモ帳だ。

ひとつを無造作に抜き出し
ページをひらりとめくれば、
羅列した単語からその日あった出来事や
提出した企画の基となったものが見えてくる。

さらには、
当時の情景までもがフラッシュバックし、
得も言われぬ感情がこみ上げてくるのだ。

そう、たとえば黒いメモ帳を適当に開けば、
あの芸人との思い出が…
あの番組のスタジオの記憶が…
えっと…
これは…
字が汚すぎてまったく読めない箇所がある。

街を歩いているときに後頭部をガツンとやられ、
それでも命の灯火を絶やさずに
ようやく書き綴ったような文字が
ちょいちょい出てくるのだ。

文字は性格を表す。
上手い下手の問題ではなく、
綺麗か汚いかだ。
どんなに下手でも
一生懸命書いた字は不快ではない。

誰にも見られないなら
どんなに汚くても構わないし、
メモ帳の文字なら自分さえ読めればいい
という方も多いだろうが、
本人ですら解読不能に陥るようでは意味がない。

などと思っていたら、ある記事を見つけた。
その記事では、
「学生時代のノートを見返して思ったことは何?」
というアンケートを取っており、
約37%の人が
「自分で書いた字が読めない」と回答していた。
おいおい、と思わず声が出た。

私のネタ帳に綴られた文字が、
その瞬間に思いついたネタ、
その瞬間に出会った面白出来事を
忘れないために書き殴ったものであるのに対し、
学生時代のノートは、
ほとんどが丁寧に取られた板書であり、
時間的な余裕がない中で書かれたものではない、
と思ったからだ。

これだったら、
私のメモの方が幾分かマシ。
そんな謎の安心感を抱いていたら、
記事の後半に、
以下のようなインタビューが載っていた。

字が汚い箇所があり、
授業中に寝ていたことが明らかに分かるなと
見返して思いました(20代女性)

その当時に流行っていた
文字の書き方をしているため、
独特すぎて読みづらかったです(40代女性)

いたー!そんな奴ら!
居眠りして謎の文字を綴っていた佐藤くん。
丸文字を駆使してノートを取っていた木村さん。

職業柄、
常にアンテナ張ってる自分じゃなくても、
皆、自分で書いた文字が読めない
正当な理由があるのだなぁ、
と感じた今回。

会っていないどころか、
記憶の奥底に眠っていた学生時代の友人たち。
ひょんなことから彼らを思い出した。
元気にしているだろうか。

メモからのエモ。