微熱大陸

2025/07/21

荒木建策(放送作家/脚本家)

幼い頃はアニメやバラエティー番組を
楽しみに観ていた私だが、
20代の頃に欠かさずに観ていたのは
情熱大陸だけだった。

だから、
今、夢がひとつだけ叶うとしたら、
三苫選手とのサッカー理論の語り合いよりも、
私は情熱大陸への出演を選択する。

個人の人生の一コマを巧みに抜き出し、
上品に見せるナレーションをはじめとする
編集の技が重なり、
誰でもかっこよく見えてしまう
最高のドキュメンタリー。
それが情熱大陸。

番組からオファーがきて撮影が始まったら、
私はどのように振る舞えるだろうか。
今は内緒だが、
エトピリカが流れる最後のシーン。
そこでの決め台詞はすでに考えている。

情熱大陸といえば、
若手だったその頃、
自分で企画書も出したことがあったり、
(まだ全国的にはマイナーだった
「大泉洋」氏で出した記憶)
とても思い入れのある番組なのだが、
ひとつ恥ずかしいエピソードもある。

情熱大陸に憧れすぎて、
出演のシミュレーションを知り合いの
ディレクターに撮ってもらおうとしたのだ。

タイムスケジュールまで作成して
当日を迎えたのだが、
それはそれは悲惨な1日となった。

さすがに1ヶ月の密着は無理だから
一日限定にしたのに、
ディレクターのひとりAさんは、
昼過ぎじゃないと嫌だと言いだし、
それならばと泣く泣く昼に時間を設定したら
もうひとりのBさんは大遅刻。

朝、カフェで仕事をするシーンから
スタートしたかったのに、
結局は日が落ちるころにようやく始動。
彼のせいで大幅に予定が狂ったというのに、
AさんもBさんもなぜか不機嫌。
お前が悪い…。
解散時にそんな雰囲気が漂っていたのも
しっかり覚えている。

たしかに企画を煮詰めなかった私にも
非はあるでしょうけど、
居酒屋で飲んでいるシーン以外、
ほとんど何も撮れなかったのは、
お二人のせいなのに、
あの空気はなんだったのでしょうか。

もう一度、僕にチャンスを。
今度はAさんが運転する車の中で
いびきをかいて寝たりしませんので。